陰陽戦記TAKERU 前編
一方、俺は階段を駆け上がって行った。
下からは鬼に精神を乗っ取られた人達はまるでゾンビのように俺を追いかけてきていた。
鬼の本体の方はどこかに行っちまったみたいだが俺はそんな事を気にしている余裕が無かった、デパート内で鬼斬り丸が呼べないのなら外に出て呼ぶしかない、
そう思った俺は一旦外に出ようと屋上の駐車場を目指した。
そこからなら外に出れるはずだった。
「ゲッ?」
上の階からも鬼に操られた人々が降りてきた。
俺は思わず階段から離れるとそこは今までいた服売り場だった。
操られた人達は左右に広がりながら俺を取り囲む、俺は壁際まで追いかけられるがすると数人の人間の耳から煙が噴出してそれが一つに固まるとあの鬼本体となって俺の前に立ち塞がった。
どうやら分身を通して本体はどこでも現れる事ができるみたいだ。煙の抜けた人々はその場に倒れた。
「くっ……」
俺は歯を軋ませる、逃げ場もないし抵抗も出来ない、まさに絶体絶命のその時、天井の電気が一斉に輝き始めた。
すると部屋を覆っていた黒い霧が消滅して鬼が苦しみ出した。
『ギャアアアアッ!』
大きな体から黒い粒子が飛び散り小さくなってゆく、よく見ると操られた人々も頭や体を抑えて苦しみ出した。
「うあああああ……」
途端耳から煙が噴出すと人々は気を失い倒れた、煙の方はそのまま消えてしまった。
「ど、どうなってんだ?」
俺はこの状況が読めなかった。
そこへ美和さんと加奈葉がやって来た。
「武様、ご無事ですか!」
「私が電気つけてきたから大丈夫だよ!」
加奈葉は事務室の近くにあった発電室に入った。
無論そこにも暴徒と化した警備員がいたが美和が取り押さえて寄生していた鬼を払うと落ちていたブレーカーを発見、元に戻して電気を復旧させたらしい、
「電気が消えたら点ける、それだけの事よ」
加奈葉が人差し指を立てる、
「武様、建物の明りのおかげで鬼の力が弱まりました、今なら鬼斬り丸を呼べます!」
「分かった。来い、鬼斬り丸っ!」
そう思った俺は麒麟の宝玉を取り出して念じると本当に鬼斬り丸が出現した。
手に取って鞘を抜くと切っ先を鬼に向ける。
「こうなりゃこっちのモンだぜ!」
俺は鬼に向かって突進、そして振り上げた鬼斬り丸で鬼を切り裂き、そのまま眉間に刀身を突き立てた。
『グギャアアアッ!』
切り裂かれた体が光り出すと鬼は光の中に消えていった。
その後、デパートには警察と救急車が到着した、俺達は騒ぎになる前にデパートを抜け出していた。
「折角の買い物が台無しになっちゃったわね……」
加奈葉は肩を落とす、
「買い物はまたすりゃいいよ、それより大変な事になっちまったな……」
明日の新聞に出るんだろうなぁ〜、
電気が切れてたから防犯カメラには何も写ってないだろうが、ここから離れた方がいいのも事実だった。
しかし美和さんは難しい顔をしていた。
「どうかしたの?」
「いえ、一つ気になる事が……」
「あの鬼の事か?」
「ええ……」
美和さんは言った。
あの鬼は分身である『子』を放ち人に寄生させて陰の気を吸収、蓄えられた力を『親』に送る事も他人に与えて暴走させる事もできる、
それがあの鬼の能力だと言うのだがそれにしては『子』の数が以上に多かったと言う。
「人間の陰の力が強すぎたんじゃないの?」
「そんな所だろうな、現代人はストレス多いもんなぁ……」
「すとれす?」
「美和さんが言う陰の気の事かな…… まぁ、色々有るからなこの時代にも、」
これも暗黒天帝の仕業なのだろう、人々の小さな負の感情でこれだけの騒ぎが起きた。
この件で俺は改めて暗黒天帝の恐ろしさを身に染みて分かった。
そして以前美和さんが言った『鬼は確実に倒しておかなければならない』と言う事を思い出した。
「美和さん、俺は少しばっかり鬼と戦う事を舐めてたのかもしれない」
「えっ?」
「でも今回の事で分かったよ、鬼の存在はほおって置けない、どんなに小さな鬼でもこれだけ大変な事になるんだ…… 奴を野放しにしてたらそれこそ大惨事だ」
「ええ」
美和さんは『奴』の意味が分かったのか力強く頷いた。
「何て言って言いか分からないけど…… 俺達も気を引き締めて行こう。」
「……はい、武様」
美和さんは頷いた。
そして互いに差し伸べた手を重ねる、するとその上から加奈葉の手も加わると俺達は微笑した。
そして新たなる決意を肝に銘じるとこの場を離れた。
作品名:陰陽戦記TAKERU 前編 作家名:kazuyuki