こんにちは、エミィです
路上アイドルにファンレター #3
私は少しの間は我慢していられたのですが、とうとう首からネックレスを外し、チェーンの部分を手に持って、透明で堅い素材で出来た愛らしい飾りの部分を下へ垂らしました。
帰り道が、分かりません……。
カンカンは鳥なので、ずっと私の道案内をしていられるわけではありません。彼なりのペースがあり、彼なりの世界があるのです。私の肩で糞をされても困ってしまいますしね。彼は飛ぶことが移動手段で、私は歩くことが移動手段なんですし。
息苦しいまでに高い建物を創り出す技術を持つこの世界の方々は、とても器用なのでしょう、すいすいと泳ぐようにして歩いているように見えます。
でも、私にはとても難しいですわ。
息を潜めて集中すると、ペンダントが大きく振れました。
これは、そちらに行けという合図です。
ダウジングのような占い方ですね。
こちらに来てその日の晩、路上にたくさんの占い師のかたがおられたので、ひとつひとつ伺っていると、とある怖そうな殿方に声をかけられて、教えて下さったのです。
そのネックレスにはあなたを導いてくれる力がある、と。
カンカンはそのとき別行動をしておりましたが、その殿方が何か違う力を秘めていることは魔力を持たない私にもわかりました。あちらの国で知り合いだった占い師と、とても雰囲気が似ていたからです。
お名前をお伺いする前に立ち去られたのが、とても残念でなりません……。
また会うことがあれば、丁重にお礼を申し上げなくては。
そしてあの灰色の女性にも、丁重にお礼を申し上げなくてはなりません。
こんなすてきなネックレスを下さったのですもの。あのときは憧れの大地に舞い上がって、気付きませんでしたけれど、もしかすると名のある占い師だったのかも。
ネックレスは導いてくれると言っても、望んだ場所に的確に、というわけではなさそうです。けれどもおかげで、ネットカフェという、安価で泊まれる場所を見つけることが出来ました。
そのネットカフェも、とても親切な方がおりまして……。
ネオンが光る大きな建物にたどり着くと、カンカンが舞い降りて来ました。
本来なら、動物は入ってはいけないんですって。
でも彼はペットではなく、従者です。決して失礼はしませんとお店の方にお話をしても、なかなか理解をしてもらえませんでした。
そんなとき、大松さんが助けて下さったんです。
彼女が、外ではありますけれど、カンカンの寝床を用意して下さったのです。
「よ、エミィ。おかえんなさい」
「ただいまですわ、大松さん」
こちらの世界では乗り物としてポピュラーという、鉄の塊がたくさん置かれたその奥。
親切な大松さんが、私たちを出迎えて下さいました。
「やや、もしや、ワタクシの寝床を掃除して下さっていたのですかな?」
「まあねえ。うち、インコ飼ってるからね。こういうの、得意なんだ」
肩口で結んで右胸に垂らした、金と黒が入り乱れた長い髪をもてあそびながら、大松さんは微笑みました。
「これは大変有難い。お気遣い、感謝いたします」
カンカンは嬉しそうにそう言って、私の肩から巣のほうに移動しました。
「でも今日はちょっと、帰って来んの、早くない? まだ、ナイトパックまで4時間あるよ。どっかで時間を潰さなきゃ」
「ええ、そうなのですけれど、大松さんに頼まれていたものを片付けようと思いまして」
「ああ――あれ」
大松さんは目を細めました。
「そうだね、悪いね。私が受け付けやるよ」
「ありがとう」
大松さんは地面に広げていた大きな紙を丸めて、近くのゴミ箱に投げ入れると、裏口からお店の中へ入って行きました。私もカンカンに挨拶をして、その後に続きます。こちらの入り口は初めて。入ってはいけないのかとも思いましたが、大松さんが何も言わないので、きっと大丈夫なのでしょう。
作品名:こんにちは、エミィです 作家名:damo