小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

こんにちは、エミィです

INDEX|13ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

目配せのガールズトーク #2


2.

 誰を信じて、誰を信じないのかは、自分が決めなければなりません。
 私はアキさんを信じています。今、この段階では。

 だから、彼女が連れて行ってくれるところには、素直に付いて行きました。何か不審なことがあれば、逃げ出せばいいのですわ。
 じっとしているばかりじゃ、何も始まりませんもの。

 お買い物が終わって次に向かったところは、学校でした。
 一目見て、すぐに学校だと分かりましたわ。私の世界と似た雰囲気があります。学校って、どの世界も、どこか神聖で、けれども活気がありますのね。少し嬉しくなってしまいました。

 広い広い砂地に、いくつものテントが並んでいます。
 食べ物や、お洋服なんかが並んでいました。

「フリーマッケット」
 アキさんは、何度もその言葉を繰り返しました。
 きっと、学校の生徒たちが品物を持ち寄って、露店を開いているのでしょう。私たちはそこでご飯を食べて、少しの間、休憩することにしました。

「――?」
「――、――!」

 顔が広いのでしょう、色々な方と親しげに話すアキさんは、とても楽しそうです。私は一人で、少しお店を見て周ることにしました。
 何に使うのかしら、不思議な置物があります。
 傘やぬいぐるみなんかもあります。
 あら、こちらはカバンが置いてありますわね。

 私は今、カバンを持っていないのですわ。
 そう思ってよく見ると、値段がとても安くて驚きました。
 やはりプロフェッショナルじゃないからかしら。これなら、手持ちのお金でなんとかなりそうです。さしたる荷物はもう何もないので、小さいもので良いのだし。

(あら? これは)

 その中で身覚えのある色のものを見つけました。

(私が大松さんに差し上げたもの……)

 どきん、と胸が鳴ります。
 間違いありません。私がこの手で、作ったのですから。
 これも……あれも……
 手に取らなくても分かります。
 カバンだけじゃありません。スカートや、ソックス、帽子――
 私が作ったものの全てが、そこに並んでいました。

「――!」

 女性の二人組が来て、片方がその中から一つを手に取って、テントの中にいた男性にお金を渡して持ち去りました。

 あっと言う間だったので、私はどこか呆然としていて……訳も分からず並んだ商品に視線を落としました。
 これはこの露店で、売っているのでしょう。
 大松さんに渡したものが、ここで……。

 大きなカバンが並ぶところになんとなく視線を注いでいると、私はまた、あるものを見つけてしまいました。見つけなければ良かった。そう思うのですけれど、勝手に手がそれを掴んで、引っ張り出していました。

 薄い色で構成されたカバン。
 間違いありません。
 形が崩れていますけれど、私があちらから持ってきたものです。冬のストールを継ぎ合わせて作った、とても丈夫なカバンです。

 中身はからっぽなのか、膨らみがありません。

(もしかして、中身もここにあるのかしら?)

 そう思ってテントの中を見渡していると、男性が手を掴んで来ました。
 私の顔を見て、何かを言っています。買えと、そう言っているのでしょうか? 私はお金を取り出しました。
 でも、違うみたいです。
 彼は周囲にも声をかけ始めて、どんどん、人が集まって来ました。
 言葉の中で――エミィ――と、私の名前を何度も繰り返していることに気付きました。

(この方、私を知っている?)

 やがてその方は手を打ち鳴らし始めました。
 それはみるみる広がって、みんな、一定のリズムで手を鳴らします。

 広場で歌ったときのように――

「エミィ!」

 アキさんが人混みをかき分けて、出てきました。
 ――大丈夫?
 最前列で、そういう顔をして首を傾げています。私はなんだかほっとして、微笑み返していました。

 でも歌おうと思っても、私には歌える歌がないのです。
 こちらの歌は、全く分からなくなってしまいました。メロディは覚えているのですが、歌詞が分からないのです。そんな状態で、皆さまにお聞かせするなんてこと、出来ません。

 それをどう説明すればいいかも分からない。
 大体この方たちは、一体、何を期待しているの?
 私が歌って……それが、どうなるのでしょう。
 吟遊詩人でも、何でもありませんのに……。

 迷いながら視線を漂わせていると、ある方と視線がぶつかりました。

 人混みの中から、真っすぐにこちらを見ていました。
 金と黒が入り混じった長い髪を一つのまとめて、胸に垂らした、女の人でした。


作品名:こんにちは、エミィです 作家名:damo