こんにちは、エミィです
目配せのガールズトーク #2
2.
誰を信じて、誰を信じないのかは、自分が決めなければなりません。
私はアキさんを信じています。今、この段階では。
だから、彼女が連れて行ってくれるところには、素直に付いて行きました。何か不審なことがあれば、逃げ出せばいいのですわ。
じっとしているばかりじゃ、何も始まりませんもの。
お買い物が終わって次に向かったところは、学校でした。
一目見て、すぐに学校だと分かりましたわ。私の世界と似た雰囲気があります。学校って、どの世界も、どこか神聖で、けれども活気がありますのね。少し嬉しくなってしまいました。
広い広い砂地に、いくつものテントが並んでいます。
食べ物や、お洋服なんかが並んでいました。
「フリーマッケット」
アキさんは、何度もその言葉を繰り返しました。
きっと、学校の生徒たちが品物を持ち寄って、露店を開いているのでしょう。私たちはそこでご飯を食べて、少しの間、休憩することにしました。
「――?」
「――、――!」
顔が広いのでしょう、色々な方と親しげに話すアキさんは、とても楽しそうです。私は一人で、少しお店を見て周ることにしました。
何に使うのかしら、不思議な置物があります。
傘やぬいぐるみなんかもあります。
あら、こちらはカバンが置いてありますわね。
私は今、カバンを持っていないのですわ。
そう思ってよく見ると、値段がとても安くて驚きました。
やはりプロフェッショナルじゃないからかしら。これなら、手持ちのお金でなんとかなりそうです。さしたる荷物はもう何もないので、小さいもので良いのだし。
(あら? これは)
その中で身覚えのある色のものを見つけました。
(私が大松さんに差し上げたもの……)
どきん、と胸が鳴ります。
間違いありません。私がこの手で、作ったのですから。
これも……あれも……
手に取らなくても分かります。
カバンだけじゃありません。スカートや、ソックス、帽子――
私が作ったものの全てが、そこに並んでいました。
「――!」
女性の二人組が来て、片方がその中から一つを手に取って、テントの中にいた男性にお金を渡して持ち去りました。
あっと言う間だったので、私はどこか呆然としていて……訳も分からず並んだ商品に視線を落としました。
これはこの露店で、売っているのでしょう。
大松さんに渡したものが、ここで……。
大きなカバンが並ぶところになんとなく視線を注いでいると、私はまた、あるものを見つけてしまいました。見つけなければ良かった。そう思うのですけれど、勝手に手がそれを掴んで、引っ張り出していました。
薄い色で構成されたカバン。
間違いありません。
形が崩れていますけれど、私があちらから持ってきたものです。冬のストールを継ぎ合わせて作った、とても丈夫なカバンです。
中身はからっぽなのか、膨らみがありません。
(もしかして、中身もここにあるのかしら?)
そう思ってテントの中を見渡していると、男性が手を掴んで来ました。
私の顔を見て、何かを言っています。買えと、そう言っているのでしょうか? 私はお金を取り出しました。
でも、違うみたいです。
彼は周囲にも声をかけ始めて、どんどん、人が集まって来ました。
言葉の中で――エミィ――と、私の名前を何度も繰り返していることに気付きました。
(この方、私を知っている?)
やがてその方は手を打ち鳴らし始めました。
それはみるみる広がって、みんな、一定のリズムで手を鳴らします。
広場で歌ったときのように――
「エミィ!」
アキさんが人混みをかき分けて、出てきました。
――大丈夫?
最前列で、そういう顔をして首を傾げています。私はなんだかほっとして、微笑み返していました。
でも歌おうと思っても、私には歌える歌がないのです。
こちらの歌は、全く分からなくなってしまいました。メロディは覚えているのですが、歌詞が分からないのです。そんな状態で、皆さまにお聞かせするなんてこと、出来ません。
それをどう説明すればいいかも分からない。
大体この方たちは、一体、何を期待しているの?
私が歌って……それが、どうなるのでしょう。
吟遊詩人でも、何でもありませんのに……。
迷いながら視線を漂わせていると、ある方と視線がぶつかりました。
人混みの中から、真っすぐにこちらを見ていました。
金と黒が入り混じった長い髪を一つのまとめて、胸に垂らした、女の人でした。
作品名:こんにちは、エミィです 作家名:damo