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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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鬼むすめ

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 その時、ユリの頭の中に幻が浮かびました。
 昔、生きていたときのことや、死んでからのことが浮かんできたのです。
 意地悪で傲慢なまま、年老いて死んだユリは地獄におとされても心を変えず、ただもう一度人間に生まれ変わりたいということばかりを強く願っていました。
 そんなユリのかたくなな心を見かねて観音さまが現れました。もともとユリの両親が信仰していた観音さまです。両親の深い信仰に免じて、一度だけ試してやろうと、ユリの目の前に現れたのです。
「おまえはそんなに人間になりたいか」
「はい。人間として生まれてこそ、生き甲斐があるのです」
「おまえの生き甲斐とは、なんだ?」
「自由に生きることです」
「そうか。もう一度だけ、気ままに生きてみるがいい」
 観音様は悲しそうな顔で消えていきました。
 ユリはもう一度人生をやり直すことになりました。
 ですが、観音様は、わずかにあるユリの「良心」をキクの姿に変えて、ユリのそばに置いたのでした。
 キクがユリの仕打ちに耐え、どこまでもはなれずにいれば、ユリは許されて次の世にも人間としてうまれることができるのです。
 ユリはさめざめと泣きました。
「ありがとう。キク。おまえが離れていったら、わたしは二度と人間として生き返ることができなくなるところだった」
 その涙が心からの涙だと感じたキクは、微笑みながら消えていき、ユリの体の中に入っていきました。
 
 ユリは城下に帰ると、すぐさま領主である夫に頼んで、米倉を解放しました。
 そして、炊き出しをして、飢えた人たちに腹一杯食べさせました。
 今まで、ユリのことを鬼のように思っていた百姓たちは、びっくりしています。
「これが、あの、わがままな奥方さまか?」
 けれど、穏やかなユリの顔をみているうちに、みんな心が落ち着いて、力がわき上がってきたのです。
 やがて、飢饉を乗り越えたその国は、しだいに豊かになり、人々は幸せに暮らしたそうです。
 その後のユリは、貧しい者や病人の世話をしていそがしく暮らし、年老いてなくなるまで、心豊かに生きたそうです。
 ユリが次に人間として生まれて来たのは、いつの時代でしょうか。
 それはだれにもわかりません。
作品名:鬼むすめ 作家名:せき あゆみ