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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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夏のおわりの花火の涙

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 「寂しかったなら、会えばよかったじゃない。好きなんだから。遠慮なんかする必要なかったと思うよ」
 まあ人のこと言えないけど、と続いたように聞こえたけど定かではない。けれどヒロの言葉は悔しいほどに正しく、これ以上ないほどに強く心に響いた。
 「そうだよね。変に格好つけないで、会えばよかった」
 きっとその方が気分転換にもなっただろうし――彼の気持ちも離れていかずに済んだ。会いたい時、会いたいと言われた時に会っていれば。
 最後に残った打ち上げ花火3個が、どんなタイミングでか一斉に空に飛んだ。続けざまに光が弾けて数秒で消える。その終わりの姿に心が揺さぶられ、気づいたら泣いていた。慌てて目頭を押さえたけど止まってくれなくて、大粒の涙がぼろぼろと、拭いきれずにあふれて地面に落ちていく。
 そういえば別れる話が出てから――別れてからも泣いていなかった。
 どうにか声は上げなかったけど、それでもかなり恥ずかしい大泣きぶりに頬が熱くなってくる。今が夜で、ここが明るくない場所で本当によかった。そう思った時、突然強く腕を引かれ、肩が引き寄せられる。
 ……目のふちにやわらかいものが触れ、訳がわからずにいるうちに、唐突に離れた。
 「帰ろ」
 やはり唐突に、立ち上がりながらヒロが言う。バケツとゴミ袋を両手に歩き出す背中を、慌てて追いかける。
 …………さっきのは何だったのか。
 横にいたのはヒロ一人。だからあんなことをした相手も他にいない。わかっていても信じられなかった。肩を抱き寄せられ、目のふちにとはいえキスされたなんて。
 帰り道、バケツとゴミ袋を各々のかごに積んで自転車を引く道のりはずっと無言で。言った時間よりもだいぶ遅くなって、電話はしたけど帰ったらまた怒られるかなと考えつつも、前を歩く背中が気になってしかたがない。だけど結局、家の前に着くまで一言も発しなかった。
 さっきのは何かの間違いだったのかもと思いかけた時、「朋ちゃん」と呼ばれて反射的に足が止まる。
 「俺は朋ちゃんを待つの、嫌になったりしないよ」
 思わず振り向いた視線の先に、初めて見るような真剣な表情。
 「まだ当分、余裕で待てるから。もう10年待ってるし」
 え、と声に出すより早く「じゃ」と再び背中を向けて、自転車とともに自分の家に入っていく。頭の中も気持ちもかなり乱れていて、しばらくそこから動けなかった。
 立ち尽くしながら見上げた2階の部屋に、明かりが点く。その瞬間また涙が出そうになった。けれど今度は悲しいからじゃない。それだけは、はっきりわかっていた。