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その扉を開けたら

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◆狭山はじめ、早くも後悔する。



あの先生ズ、思いっきり猫かぶってやがったのか。
くっそー。
帰りの車の中で腹立たしいやら憎らしいやらでワタシはずっと無言だった。
絵里だけは、仕事の契約が決まってホクホク顔だ。
「ちょっと、はじめ〜!アンタ良かったじゃないの」
良かったのはあんたでしょうが。
「絵里、あんたあの作家先生のこと知ってたの?」
「会ったのは今日が初めてよ。アンタあんなイケメンたちと一緒に暮らせるなんて最高じゃないの」
はぁ?いくら顔がイケメンだって、性格悪かったら論外でしょ。
「しかもミナト先生だっけ?彼、まだ22らしいわよ。おとなしくて素敵で、いい青年じゃなーい!」
「いや、あいつ性格最悪だよ」
「は?あの人が?狭山さんみたいないい方に来ていただけてよかったです、とか言われてたじゃないの」
絵里は居間で編集と打ち合わせしてたから知らないだけだよ。
「あいつが一番最悪!ワタシ聞いちゃったんだよね。人のこと家政婦呼ばわりしやがって、散々バカにしてたのよ?」
絵里のことだって、女社長のどこがいいのか分からないとか言ってたし。
「うっそ、信じられない。アンタの勘違いじゃない?」
「この耳でしかと聞いたわよ!」
「まぁはじめの言うことなら、話半分程度に聞いておいたほうが良さそうね」
「ちょっと!大学からの付き合いのワタシよりも、イケメンの方信じるっての?」
「だって大事なお客様ですから〜」
やっぱり絵里は仕事のほうが大事らしい。

「……やっぱこの仕事、やるの止めようかな」

職場でやな奴がいるのは仕方ないけど、仕事とはいえ一緒に住むとなると話は違う。
ポツリと漏らすと、絵里がちょっと!と大声をあげた。
「アンタ今更止めようとか許さないわよ!?もう契約交わす段取り取っちゃったんだから!」
「だってさー」
「だっても何もなぁい!仕事ないって言うから紹介してあげたのに、やってもみないで何言ってるのよ」
「でもさー」
「いい加減にしなさいよ?仕事なくなっても養ってくれるオトコ無し、貯金も無し、住むところももうすぐ無くなるかもしれないっていうのに、掃除と料理とちょっとした管理だけで、あんなマンションに住めるっていうのに、アンタこれ以上何の文句があるのよ」
「分かってるけど」
いいから家帰ったら、さっさと引越しの支度しなさいよ?と絵里が怒る。
「大家さんにもしっかり引越しするって言うのよ?あと、ご両親にも!」
……こりゃあワタシの言い訳は許さない雰囲気だわ。
「わかった、わかった」
とりあえずやるだけやってみよう。
ダメだって分かってその後どうするのか考えるのはそれからだわ。

事務所に着いてからは、書類の作成やら身元確認の書類の用意などで忙しくて、全部終わったのは21時を過ぎた頃だった。
「おなかすいたね。ご飯食べて帰る?」
絵里が誘ってくれたけど、今日はもう疲れてしまって一刻も早く家に帰って休みたかったので辞退。
「ごめん、今日は疲れちゃったからもう帰って寝るわ」
「わかった。じゃあ明日から引越し準備よろしくね」
結局今住んでいる家は、1ヶ月前に申告しなきゃ出ることができないので
あと1週間程で退去することになったとしても、一ヶ月分の家賃だけは支払わなきゃいけないようだったけど、その代わり敷金だけはしっかり戻ってくるみたいなので、その後もなんとかなることが分かってちょっとホッとした。
最初に住んだときに頑張って敷金2ヶ月分出しといてよかった!
絵里の会社を出ると、既に家路に着くであろうサラリーマンやOLさんが駅に向かって歩いているところで、つい1ヶ月半ほど前は私もこんな風に帰ってたんだなぁと思うとなんだか寂しくもあり、悲しくもあり、複雑な気持ちだ。
ここんところの毎日はネットで求人情報とにらめっこが続いてたしな。
でも、そういう生活から抜け出すことができるなら、お手伝いさんでも悪くないのかもしれない。
齢27歳でリストラに遭い、挫折するとは全然思ってなかったけど。
結婚でもしてたら違ったのかなぁ〜とか思っちゃうけど、いない旦那様を想像しても子供もできなきゃメシも食えない。
……頑張るしかないのだ。

家の近所にあるコンビニでおにぎりとカップめんを1つ買い、家に戻る。
狭いながらも大学時代から住んでいた家である。ここを離れることになるとすごく寂しいけど、あんなに豪華なマンションで暮らせるなら文句は言えない。
電気ケトルでお湯を沸かしながら携帯を見ると、実家からの着信がきていた。
「そういえばずっと携帯チェックしてなかった……」
リダイヤルでかけなおそうか悩んだけど、明日にすることにした。
疲れてるのにお小言まで聞きたくはない。

荷造りは明日からにしよう、とりあえず今日はご飯食べたら寝ようと思いながら、カップめんをすする。
周りを見渡すと、何十年も住んでたわけじゃないのにいつの間にか入居してきたより倍くらい荷物が増えてる。
「引越し業者に電話しなきゃー」
まずはいらないものを捨てるところから。
このまま引越ししたら、きっとあの部屋には荷物全部入らない。
そんなことを考えていると、眠気がやってきた……。
「あー……、ご飯食べて1時間以内に寝ちゃうと太る……」
でも、結局ワタシは眠気には勝てなかった。

     ****

「ええと、引越し費用として5万、大型ゴミが3つで2千円、敷金の戻りが20万として……ウンなんとかなりそう!」
自室の小さなテーブルで費用を計算すると、なんとかなりそうだということが分かってちょっとホッとする。





































作品名:その扉を開けたら 作家名:ろし子