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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】one of A pair

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 と言ってはみるが、時計を見やれば十時過ぎ。早い時間では、ない。単に司の起床が遅いのだった。
 短い髪を片手で梳くと、欠伸が出た。司は柚真人の妹であるから、彼女も間違いなく美少女なのだが、その雰囲気はどこか少年のそれ――である。
 いわゆる『少女』とは、一線を画すような、侵し触れがたいような、涼やかな空気をもっている。巫女の装束をまとうとそれはいっそう際立つが、本人稼業があまり好ましくは無いらしい。 
 優麻はといえば、そんな彼女をいたく気に入っていた。
「めずらしいじゃない?」
「今日は、法廷もお休みなので」
 優麻の本業は端的に弁護士である。
「そう?」
「いやあ。暇ですね」
 嘘だ……、と司は思った。新米とはいえ民事の案件百件から手がける若手の辣腕弁護士が、そんなに暇なわけがなかろう。司は現在中学三年生で、優麻に家庭教師を頼んではいたが、日曜日である今日はその予定もない筈だ。
「受験勉強、調子はどうです?」
「うん。一個、わからないところがある。あとで教えてもらっていい?」
「ええ、もちろんですとも」
 皇柚真人の妹君は、自分も畳に座る。卓の上のリモコンを取り上げて、テレビをつけた。急に賑やかなワイドショウの音声で、居間の空気が満たされた。
「……ところで兄貴は?」
「おでかけです」
 即答は絶妙に怪しいタイミングだった。しかも青年の愉しそうなこと。
「ふうん……、そ。日曜だってのに。今日もさぞかし遅いんでしょーねー」
「そうでしょうね」
「……コーヒーでも淹れようか?」
「そうですね。ああ、私がやりますよ、司さんはそのままで結構です」
 ただでさえ開いているのか閉じているのかわからない眼鏡の奥の目を、さらに細めて優麻は言い、立ち上がった。 
 ――お仕事、か。
 台所からは他人様の家の台所だということなど、優麻の頭にはないようで勝手知ったる勢いで何やらやっている物音が聞こえてきた。
「司さん。トーストでも作りましょうか? お昼まで、まだ間がありますし」
「あ……うん。ありがとう」
 頼まれたわけでもないのに、非常に良く気のつく男である。司は、見るともなしにテレビを見ながら、頬杖をついた。