【勾玉遊戯】one of A pair
あと、優麻にわかることといえば、少年の妹 皇家の巫女、司が、その得体の知れない『来訪者』を極端に嫌い、怖がっているということくらい。
硝子窓から中庭を眺めやれば、外は雪。昨夜半遅くから降り出した季節外れの大雪は、昼を過ぎてもまだ止む気配を見せなかった。
今日が土曜で高校が休みでなかったら大変なことになっていた、と少年がごちる。
神主の職にあるこの少年は、齢十六であるから、当然普段の彼の仕事はといえば、学業に他ならないのである。
「君が隠匿したその、件の証拠が唯一の物なら、事件は迷宮入りということですね」
と、対する弁護士の青年が呟いた。
「そういうこと。おれがしたのはその幇助。事件は完全犯罪」
「完全犯罪ですか? 私はいまだかつて一度もお目にかかったことはありませんがね」
「当たり前だろ。弁護士のお目にかかっちゃ完全でもなんでもない」
「あ、そうですね。ですが、……君はそういうことを知っていたんですか? その、篠崎湖珠には、あの日何もその……訊かなかったように思いますが」
「それが奇遇だったってわけだ」
「奇遇、ですか?」
柚真人は、小さく笑って頷いた。
「そう。……そこで、種明かしをしよう。おれだって、できない話は引き受けたりしない」
柚真人は、そう言って悪戯っぽい笑みを唇に刷いた。けれどそれは、穏やかに微笑むより、優しく微笑むより、印象が鮮烈だ。
涼しい瞳が愉しげな色を宿すと、それを見返す優麻でさえ、見慣れているはずなのに時折身が竦むような寒気を覚えるのが常だった。
作品名:【勾玉遊戯】one of A pair 作家名:さかきち@万恒河沙