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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】one of A pair

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ACT,1





 かきくらし 降る白雪の 下消えに
 消えてものおもふころにもあるかな

      ☆

 ――ここ……だよね。
 篠崎湖珠は、朱い鳥居を見上げた。
 それは湖珠にとっては見慣れない、装飾のない鳥居だった。ただ四本の丸太を組み合わせただけの、神明鳥居と呼ばれる要式である。
 神社の名は、皇 神社、と聞いていた。
 噂を知ったのは、高校生の時。湖珠は、この付近にある私立の女子高校に今年の三月まで通っていた。
 ――ねえねえ、ウチの学校の裏山ンとこ、神社あるでしょ。あの、公園みたいになってる緑地ンとこ。おっきいヤツ。
 ――あっ、知ってる知ってる。神主さんでしょ!
 ――そーそー。凄いんだって。何か、なくしたものとか、見つけてくれたり。
 ――お秡いとか。近所で有名なんでしょ?
 ――ええー。うっそ。それ、本物お?
 ――うっさんくさー。ヤバイよそれ。
 ――どんな爺さんなのよお。おっさん?
 ――違う。男の人だってよ、若い。
 ――三組のノリが見たって言ってたよ。なんか、むちゃくちゃ綺麗なんだって。
 ――きれいィー? 男があー? なあにそれ気色悪ぅー!
 ――でさ、占いみたいなことすんの。当たるんだってサ。
 ――こわァ。呪いとか、頼むとやってくれたりして。
 ――うっそ。危ないんじゃん。ソレ。 クラスメイト達の、ちょっとした、
 たわいのない話だった。そのときは、湖珠だって気にも止めていなかった。考えてみれば随分と無茶苦茶な話だったし、噂話が面白可笑しく脚色されて、挙句の果てに暴走したとしか思えない代物ではないか。
 当時は、確かにそう思って、遠巻きに戯れる級友たちを見ていたものだ。
 けれど、今の湖珠には――。
 噂話の真偽など知らない。でも、もうそんな噂にでも、縋るしかない。
 晩秋――。
 目をすがめて見上げる夕暮れの西の空は、赤いセロファンを張りつけたように鮮やかだ。
 影絵のような鳥居の向こうの秋空を見遣り、湖珠は軽く唇を噛んだ。
 大丈夫かな……。大丈夫、よね……。
 それは篠崎湖珠の本当に最期の――一縷の望み、だった。

      ☆

 石造りの階段を数段上り、鳥居をくぐる。
 まっすぐのびる参道の向こうに、狛犬。拝殿と神殿が見えた。
 そして紅の空の下、藍色の薄闇に没みかけた境内に浮かぶ――白い人影が在る。