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城塞都市/翅都 40days40nights

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 あまり高くない天井でちかちかっと光が瞬いて、やがて点った電灯に照らされたそこは、お店よりも少し狭いぐらいのスペースに大きなスチールラックが組まれ、そこに大小様々な箱やビニールで梱包された置物なんかが所狭しと置いてある、まさに倉庫の様相だった。きっとお店に出し切れないものを、色々と仕舞ってあるんだろう。物珍しくてきょろきょろと棚に並んだ箱のラベルなんかを見ていると、おばあちゃんがスタスタと部屋の奥にあるラックの方へと歩いていきながらちょいちょいとわたしを指先で招いたので、わたしは慌ててその後を追った。
「さぁ、こっちだよ。この中から好きなのをお選びな。この辺にあるのは全部古着の箱だから、他も適当に見てくれて構わないからね」
 よいしょ、とおばあちゃんがラックから下ろした箱の中には、おばあちゃんが言ったとおり、まだ新品の女性用下着がたくさん詰まっていた。その隣にどさりと下ろされた箱にはマジックの太い文字で「古着」と殴り書きがされていて、開けてみたら本当に古着がどっさりと入っている。
 骨董屋さんに何でこんなに下着や古着があるのか分からなかったけど、下着については「人から頼まれて仕入れた」みたいなことを言っていたし、さっきのジュラルミンケースの中身だって骨董品には見えなかったから、もしかしたら骨董屋の方は表向きだけで、本当は卸業の方が本業なのかもしれない。それにしたって一気にこんなに大量に仕入れることができると言うことは、きっとどこかに親しくしている古着屋さんでもあるんだろうなぁ、とわたしが下着の入った箱に手を突っ込んで自分のサイズに合う下着を選んでいると、おばあちゃんが「こんなのはどうだい?」と、古着の箱から取り出してきたフリルやレースのいっぱいついた甘ったるいワンピースをわたしの背中にあてながら笑った。
「あら可愛い。よく似合ってるじゃないか。こう言うのは若いうちにしか着れないんだからね。仕立てもいいものだし、安くしておくよ……それにしても『ジョシュアの命令』だなんてまったく、あの子らもまた何をやらかすつもりなのやら。まさかあんた、口をきけなくさせられたのは、あの子たちに一服盛られた所為じゃないだろうね?」
 そうして次の瞬間、すっと耳元に唇を寄せられて囁かれた台詞に思わず絶句すると、おばあちゃんは「やだね、冗談だよぉ」と言って笑った。
「幾らあの子らでも、身内の家族にまさかそんなことはしないさ。けどねぇ、あんたみたいな子をあの子らに関わらせるのは、アタシゃイマイチ賛成できないんだよねぇ」
 身内の家族、と言うのは多分わたしのことだろうけれど、「あの子らに関わらせるのは賛成できない」とはどういうことだろうか。
 わたしは怪訝な顔をおばあちゃんに向けたのだけれど、お婆ちゃんはお構いなしにぺらぺらと先を続ける。
「ミハイルも、妹にはよくよく言い聞かせてマトモな仕事させてるって話だったしさ。あんただって、まさかミハイルと同じ泥棒になろうなんてこと、考えちゃいないんだろ?」
「!?」
 そうして続いたおばあちゃんの次の台詞に正直、絶句というよりも先に頭が真っ白になった。
 おばあちゃんは今、何を言ったのだろう。よりによって兄さんが泥棒?あの顔はごついくせに気が弱くて、ドジで頼りなくてちょっぴり情けない、あの兄さんが?
「アタシも大概外道な女だけどさぁ。それでもあんたみたいな子が道を踏み誤って不幸になるのは、やっぱり見過ごせないんでねぇ……あれ、あんた妙な顔してるね。何か言いたいことでもあるのかい?」
 そんなこと、とても信じられたもんじゃない。ていうか、大嘘にも程がある。
 一瞬で顔を強張らせて、唇をかみしめたわたしの表情の変化に気がついたんだろう。きょとんと首を傾げたおばあちゃんを精いっぱい睨んだら、なんとも怪訝な顔をしたのは今度はおばあちゃんの方だった。