挽歌 - 小説 嵯峨天皇 - 第一部
「それで人心が鎮まると思うか」
「正直に申し上げまして、明言は致しかねます。しかし、いずれにせよ、事が本格化する前に何らかの対策を講じてゆくことが必要でございましょう」
「よし」
桓武は頷く。新味のある策ではないが、確かに何らかの対策は必要だ。
「わかった。そのようにはからえ」
☆
母の死によって始まった一連の不幸が早良の祟りゆえであるとは、桓武はまだ半分信じてはいなかった。だが、不幸はこれで終わらず、乙牟漏の死から四ヵ月後、またもや死者が出た。
坂上又子である。死因は階(きざはし)からの転落による事故死。
四ヵ月にして、神野と高志、そして大伴は養母を失ったことになる。そして、高津内親王もまた、実母を失ったのである。
作品名:挽歌 - 小説 嵯峨天皇 - 第一部 作家名:深川ひろみ