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私のやんごとなき王子様 理事長編

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10日目


「それじゃあ、後はよろしく頼むよ。健亮」
「はい、ありがとうございました!」

 元気よく頭を下げる真壁先生の横に立つ私は、ずっと気持ちが晴れないままだった。

「小日向さんも、色々とありがとう。本当に助かったよ」
「あ、いえ……」

 私は理事長に恋をしてしまった。
 昨日の海での出来事は夢のような時間で、今でも鮮烈に私の脳裏に焼き付いている。
 あの理事長の腕のぬくもりと甘いコロンの香り、そしてすぐ傍で囁く優しい声……

「本番まで後少しだから、頑張ってね」
「はい」

 真っ直ぐに顔を見られなかった。
 寂しさと恥ずかしさで、どんな顔で挨拶をすればいいか分からなかったのだ。
 理事長所有のクルーザーはピカピカで、微笑んで船上から手を振る理事長を見送った私と真壁先生は、船が遠くに消えて行くのを見届けてほうと息を吐いた。

「理事長も忙しいのによく5日も滞在できたよな」
「まあ、秘書の方がその分ご苦労されてるみたいですけど」
「ああ、田中さんな……あの人仕事出来るくせに理事長から逃げるのは下手なんだよなあ。器用貧乏ってやつ?」
「――違うと思います」

 くだらない真壁先生との会話がなんだかほっとする。

「まあ俺達も明日には戻るし、あと一踏ん張りだ。頑張ろうぜ」
「はい!」

 理事長と離れてしまうのはやっぱり寂しいけど、私にはどうしていいか分からない。水原さんみたいに思いを告げるなんて出来ないし、かといってこのまま何も無かったように生活するのを我慢する事も出来ない。

 なんてわがままなんだろう。