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私のやんごとなき王子様 理事長編

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「――星越学園に入学する以前、私は父の仕事の関係で海外にいました。その時、理事長に何度かお会いした事があります」
「もちろん覚えているよ。君のお父様は外交官をなさっているから、その時向こうで会ったね」

 理事長の声もすぐ近くで聞こえた。

「初めてお会いした時から、ずっと私は理事長の事を好きでした。その気持ちは、この学園に入学してからも変わりません」

 ドキ……
 水原さんは、やっぱり理事長の事が好きだったんだ。しかも、学園に入学する前から―――

「ありがとう。理事長として、学園の生徒に好きになってもらえるというのはとても嬉しいよ」
「違います! そうじゃありません! 私の言う好きは、恋愛」
「駄目だよ」

 理事長は水原さんの言葉を静かに止めた。
 私はドアのこちら側でごくりとつばを飲み込み、もう一度深呼吸をした。

「そんな事をおっしゃらないで下さい。確かに私は生徒で、あなたは学園の理事長。立場上こんな告白を受けてはいけないという事は分かっています。でも……少しだけでもいいんです。どうか、私の事を本気で考えて下さい。今すぐ返事を頂きたい訳ではありません」

 必死に頼む水原さんの姿は、いつものあのスマートな様子からは想像出来なかった。
 これ以上話しを聞いているのは良心がとがめられる。私は思い切ってチャイムを鳴らした。

 ブーー

 もちろんすぐにドアが開き、中から今にも泣き出しそうな顔の水原さんと、困ったように笑う理事長が現れた。
 私は今しがた来たばかりという顔を装い、笑顔で挨拶をする。

「あ、お疲れ様です。理事長、これ、真壁先生に頼まれたミーティング用の書類です」
「ありがとう、小日向さん」
「――それでは理事長、失礼します」

 水原さんは私の横をすり抜け、まるで宙に浮いているようなふわりとした足取りで階段へと消えて行った。私はその後ろ姿を見て、とても胸が苦しかった。

「昨日はありがとう」
「あっ、い、いえ。とんでもない」

 目の前で微笑む理事長の顔を直視出来ず、私は視線を泳がせながら答えた。

「君が作ってくれたおかゆのおかげで元気になったよ」
「良かったです。でもくれぐれも無理なさらないでください。それでは失礼します」
「ちょっと待って」