私のやんごとなき王子様 理事長編
7日目
困った事に今日になっても理事長の秘書さんが島に来るメドが立たず、私がお手伝いを続行することになった。
理事長と一緒にいられるというのはとても嬉しいのだけど、やっぱりあまりお役に立てていないから申し訳ない。それに、今日の理事長は昨日よりも辛そうに見える。
おまけに何故か生徒指導側から理事長への連絡係に水原さんが指名されみたいで、朝から何度もこのスイートルームに顔を出すのだ。
まあ、別にそれはいいのだけど、毎回ドアを開ける私に向ける視線がコワイのよね。
今も水原さんは理事長に書類を渡して話し込んでる。時々私を横目に見ながら。
何よ、そんなチラチラ見なくてもいいじゃない。気付いてないとでも思ってるのかしら?
私はずっと机に向かってファイルを整理したり書類に不備がないかの確認作業をしてるのだけど、さすがに目の端に水原さんの姿を捉えているから見てるのが分かるのだ。
「それではこれはお預かりして、ファックスで流して来ます」
「頼むよ」
「はい。今日は私達生徒指導担当が食事当番なので、昼過ぎから準備をします。御用がある時は調理室に内線してください」
「分かった」
「小日向さんも当番なんだから後でこっちに来てね」
急に話しを振られ、私はドキリとした。
そうよね、私だけ作らないって訳にはいかないもんね。
「あ、うん。理事長、いいですか?」
私が顔を上げると、理事長が微笑んだ。
「そうだね、いつまでも君を独り占めしている訳にはいかないから。今の作業は終わりそうかな?」
「はい、もう少しで終わります」
「それじゃあそれが終わったら、行っておいで」
「ありがとうございます。それじゃあ水原さん、これが終わったら行くね」
「分かったわ。それでは理事長、失礼致します」
水原さんが相変わらず颯爽と歩いて部屋を出て行くと、私はすぐに理事長の様子を見守った。
――やっぱり辛そうだな。
さっきの笑顔もそうだけど、水原さんと話している時の理事長の声が何となく暗かった。昨日もあんまり寝てないとか?
しばらく作業を続けたけど、気になって仕方なかった。
仕事を終えた所で私は気付いたら立ち上がり、理事長の真ん前に立っていた。
作品名:私のやんごとなき王子様 理事長編 作家名:有馬音文