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高校生殺人事件 警視庁・香川美優と雪菜の事件簿(一)

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「呼び出すからには、何かあったに違いない。重大な発見が。しかし、何が見つかったかぐらいは、前もって言ってもよさそうなものだが」
 沢木は、今度ばかりは不満を漏らした。
「逆に、事件の核心部分をつかんだのかもしれない」
 藤川の目が輝いている。
「…沢木さん、A型をどう思います?香川警部はAですよ」
「一般的に自己顕示欲が強いって言われるけどな。よく命令するのもAなんじゃないか?」
「ふふふ。血液型と性格は関係ないというがな…」
 二人はO型とB型なのでA型の悪口を言う。
「行こう。重大事に乗り遅れるとと、後が怖いぞ」
 沢木は藤川の肩を叩き、颯爽と車に乗り込んだ。覆面のサイレンが鳴り始めた。
「シャベルを二つ持っておいで」
 と言うメールが入った。途中の警察署へ寄って、シャベルを調達した。

 ちょっと引っかかるものがあった美優は、
「部下に捜索させてやるわ」
 と、言っていた。捜索するのが自分ではないのだから決断は早い。
 老人が見たというあたりの山道には、幸いにも車の轍が残っていた。その轍を手掛かりに周辺を夕方までかかって掘り返した。武藤の妻、亜季の遺体が見つかった。山梨県警のパトカーが到着した。司法解剖は、山梨県警に依頼した。解剖後、遺体は警視庁へ送られた。

 武藤を拘留して尋問が始まる。はじめ、武藤は抵抗した。
「あんたがやったのは、わかってんのよ」
 バンっと、机を勢いよく叩き、美優も尋問に参加している。世の中の刑事連中は、人権が尊重されるこのご時世に、そんなことをしないと、どんな分からず屋も一目で悟ってしまう程の迫力を備えていた。武藤は、それでも沈黙を守ったままである。力押しでは、容疑者はなかなか落ちない。だが、美優の場合は、ただのストレス解消だったのだからタチが悪い。犯人の追及に魅力を感じて刑事になったともいえる。
 しかし、遺体には首を絞めて殺された跡が残っていた。力任せの犯行である。男性が犯人の可能性が高い。案の定、手の跡が和也と一致したという結果が出た。
 それを聞くと、武藤は、うなだれて妻をカッとなって殺してしまったと自供した。さらに遊児の件を追求するが、口を割らず、首を横に振るだけだったが、沢木刑事に入ったある連絡を聞くと、とうとう素直に自供をした。

 第十章 高校生殺人の真相

 沢木に入った連絡とは、武藤の家の付近で、遊児がうろついていたのを住民に見られており、裏が取れたという伝言だった。どうやら遊児は直接武藤に父からの手紙を手渡そうとしたらしい。一日も早く届くことが、父の役に立つことだと考えたのだろう。
 カネを使いすぎてサラリーマン金融から多額の借金を抱え込み、注意しても効果がなく、離婚届にも判を押さないというので、衝動的に妻の首を絞めてしまったというのが動機だった。首を絞めている瞬間を遊児に目撃され、気が動転した。遊児がこちらを見ているのが目に入ったのだ。というより、目が合ってしまった。
 遊児は直接、武藤の家に届けにきていたのだった。連れの一人の柳達郎の家が近くにあるので、そこへ寄るついでだったのだろう。そして、武藤に会おうかどうか迷っていた。仲の悪かった父親のために、良かれと思ってしたことが裏目に出てしまった。皮肉なものである。
 遊児に見られてしまって、こいつさえいなければという独善さから一思いに消してしまえという考えに支配されたと語った。殺そうと必死だった。連日、遊児のあとを追い、十一日の夜にチャンスが巡って来た。待ちぼうけたのか、いつも行くらしい店から遊児が一人で出てきた。気づかれないように息を殺して背後から忍び寄り、持ち歩いていたナイフで刺したのだった。
 興奮していたので、力が入り、一突きで深く刺さった。それだけに、刺したらショックでナイフを捨ててすぐに逃げた。本気かは分からないが、泣いて謝ったそうだ。これが真相だった。遊児に不良仲間がいることを知っており、その連中に罪をかぶせる目的で、彼らがいつもいる公園に猫の死体を捨てたのは自分だと自供した。警察が、不良仲間を追及するきっかけにしたのだという。
 
 雪菜は学校帰り、てくてくと通いなれた道を歩いていた。事件の結末は、美優から電話で受けていた。
「今晩も僕がご飯を作るのかな?」
 一方、自分は事件のことが頭から離れない。娘が親を疑い、親が息子をどうしようもないと言い、他人が、その人の半分も年齢のいかない未成年をよく考えもせず手にかけた。許せないという思いが湧いてくる。
「でも遊児はなぜ殺人現場を見たことを警察に言わなかったのだろうか?」
 と、雪菜は自問した。美優に聞こうかと考えた。きっと親切に教えてくれるに違いない。しかし、甘えはほどほどにしよう。納得がいくまで考えてみることにした。自分も、高校生になったら分かるのかもしれないと思った。
「罰しなくちゃいけないのは、本当に手を染めてしまった人たちだけなのかな?違うんじゃないか?」
 それでも、この世界は高校生でも、無常にも殺されてしまうのかとため息をつく。不意に空を見上げるとまたため息をついた。空には抜けるような青空が広がっている。二度目のため息は安堵の息だった。きれいな世界はとりあえず、半分はある気がした。


fin