私のやんごとなき王子様 鬼頭編
4日目
「着替えに洗顔、歯磨きに充電器それから〜」
旅行鞄を開いて荷物の最終チェック。忘れ物があったら厄介だもの。
「うん、バッチリ!」
重たい旅行鞄を持ち上げると私は玄関へと向かった。
玄関ではママが私の出発を見送る為に立っていてくれた。
「気を付けてね。頑張るのよ」
「うん、有難う」
ママともしばしのお別れ。パパは早朝から仕事に出かけてしまったけど、昨晩はたっぷり話をした。高校生活最後の演劇祭、二人とも見に行くのが楽しみだって言ってくれて、それが素直に嬉しかった。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
ママに見送られて、私はさなぎと待ち合わせをしている駅へと向かった。
*****
「ごめ〜ん! 待った?」
「ううん、今来たとこだよー」
駅に着くと、さなぎの姿は既にあった。
「楽しみだね〜!」
さなぎが本当に嬉しそうに言うから、私もますます楽しみになってくる。
合宿が行われるリゾート島へは、理事長がチャーターした大型客船で行く。船の用意された港に現地集合なのだが、私やさなぎのような庶民代表はそこまで電車で行くのだ。
亜里沙様や風名君なんかは高級車で横付けなんだろうな、なんて重たい荷物に早くも痺れかけてきた右腕が、そんな二人を羨ましく思ってしまうのに拍車をかけている。
「にしてもさぁ、ホントにリッチだよねぇ」
電車に揺られながらさなぎがこぼす。
「そうだねー。だって理事長が自ら船をチャーターだもん。私、あんな豪華な船に乗れるのって、多分これが最後だと思う」
「あはは! 言えてる〜」
理事長は本当に素晴らしい方だと思う。とはいっても私達のような一般の生徒では中々会う事すら難しいので、よくは知らないのだけれど。それでも私達がこうして伸び伸びと過ごせるのは、全て理事長の教育方針の賜物だと思うのだ。
「それにさー、理事長ってちょーカッコイイよね〜!」
「さなぎは利根君のファンなんじゃなかったの?」
「利根君は利根君、理事長は理事長! はぁ〜、今回の合宿にも途中から様子を見に来て下さるらしいけど……あ〜、是非ともお目通りしたい!」
作品名:私のやんごとなき王子様 鬼頭編 作家名:有馬音文