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私のやんごとなき王子様 鬼頭編

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「鬼頭先生のご実家がお金持ちかも知れないじゃないですか」
「……なるほど、お前にしては珍しくまともな意見を言うな」

 鬼頭先生といる所為なのか、妙に唇が乾いてしまった。

「珍しくってなんですか、失礼な……あっ」

 一応反論し、乾いた唇をなんとかしようとポケットからリップを取り出すと、車が停止した反動で落としてしまった。

「どうした?」
「いや、リップを落としてしまって……」

 先生の方に転がったような気がするな。
 と、手を伸ばそうと身をかがめた瞬間だった。

 ゴチン!!

「いたっ!?」
「っ!?」

 鈍い音とおでこに受けた衝撃で、私は慌てて体を起こした。
 見ると私の隣りでは鬼頭先生が鼻を押さえて私を睨んでいる……
 や、やばい―――

「すっ、すみませんっ! あのっ、そのっ……申し訳ありませんでしたあっ!」
「……」

 無言で再び身をかがめ、先生はすいと私の目の前にリップを差し出すと、青になった信号と同時に静かに車を発進させた。

「あの……ありがとうございます……せ、先生大丈夫ですか?」

 恐る恐る尋ねると、先生は眼鏡をくいっと上げ、またため息。

「お前は……本当にいい度胸をしてるな。この俺にヘッドバッドを食らわせた女はお前が初めてだ」
「不可抗力ですっ! やりたくてヘッドバッドした訳じゃありませんっ!」
「俺には過程はどうでもいい、結果が全てだ。したがって、お前が落とした物を拾おうとしたのと俺が拾おうとしたのが同時になって偶然ぶつかったのだとしても、お前の石頭が俺の鼻にぶつかったことは変え様のない事実だ……俺の言っている事、分かるよな?」
「う……はい」

 ようするに「許さない」って事ですね、先生……
 まだ何一つ買い物は済んでないのに、私は買い物が終わるまで鬼頭先生にいじめられることが確定した。
 でもでも、私悪くないよね?
 目的地近くの駐車場が見えて来て、私は心の中でものすごく大きなため息を吐いた。

「取りあえず、まず俺の買い物に付き合ってもらう。それから真壁の買い物だ。帰りは遅くなるから覚悟してろ」
「――はあい……」

 先生がものすごく楽しそうに見えるのは、多分私の気の所為じゃない。