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私のやんごとなき王子様 鬼頭編

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「簡単だ。面白いからだ」

 ―――え? いや、まあ、期待してた訳じゃないんだけど……。
 肩を落とすと、水原さんはぐっと力を溜めて一気に吐き出した。

「――分かりました、失礼します!」

 そしてそう言うと走り去ってしまった。

「あっ、待って!」

 思わず追いかけようと走り出した私の腕を、鬼頭先生が掴んで止める。

「行ってどうする?」
「ど、どうするって、あんな言い方しなくてもいいじゃないですか! 別に一緒に花火見るくらい構わないんじゃないですか!? そりゃあ私は先生にとってはからかって遊ぶには丁度いいおもちゃかもしれないですけど、彼女は先生の事を本気で好きなんですよ!?」
「何故あいつが俺の事を好きだと知っている?」
「そっ、それはっ!」

 しまった。ついうっかりしゃべってしまった!

「……まあいい。もしあいつがさっきの俺の質問に答えていたら、別に一緒に花火を見るくらい構わないと思っていた。だがあいつは答えなかった」

 先生が何故一緒に花火を見たいのかと尋ねた時、水原さんは答えに詰まった。素直に一緒に見たいからと答えていれば、一緒に花火を見ていたっていうの?

「お前ならどう答えた? 好きな男と一緒に花火が見たい時、何故一緒に花火が見たいのかとその男に尋ねられたら……」

 そんなの……そんなの分からない。もし水原さんと私が逆の状態だったら、私は先生に何と答えていただろう。

 でもきっと、
「一緒に見たいからって答えたと思います」

 視線を先生の足元に落としたまま答えると、先生が笑ったのが分かった。
 顔を上げた時にはもう笑っていなかったけど、私の腕を掴んでいた手を放し、再び窓辺へと戻る。

「お前があいつを追いかけて行った所で、あいつに嫌われるだけだ。自分が惚れた男と一緒にいた女からの慰めの言葉など、ただの自慢にしか聞こえんだろうからな」
「あ……」

 そうだ。水原さんを余計に傷付けてしまう所だった。
 私は力なく先生の隣りに戻ると、また空を見上げた。
 相変わらず美しく空に鮮やかな色を広げる花火に、ため息を向ける。
 水原さんの気持ちは分かる。こうして隣りにいても鬼頭先生はすごく遠くて、私みたいな子どもが踏み込んじゃいけない相手なんだって分かってるから。