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私のやんごとなき王子様 鬼頭編

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 夕食後、私は米倉君と一緒に出かけるさなぎを送り出し、医務室へとやって来た。
 先生は暗い部屋の窓に体を預けて、風に髪をなびかせながら外を見ていた。

「もうそろそろ始まる時間だぞ」
「はい」 

 先生の隣りに並んで窓枠に両腕をかけ空を見上げると、第一発目の花火が打ち上がった。
 
 ドーーーン!!
 
 大音響を響かせ、心臓の内側から体全体を振るわせるような振動が走り抜けた。
 夜空に弾けた大きな色鮮やかな花火に、少し離れた海岸や宿舎の中から一斉に喝采が起こる。

「綺麗!」

 次々と重力に逆らって空へと投げ出されて行く花火の雨に、私は時間を忘れて魅入っていた。

「――まあ、悪くはないな」

 ぼそりと言った先生に、私は苦笑する。
 素直じゃないなあ、本当に。
 鬼頭先生と一緒にいる所為か、花火のあの大きな音がいつもより静かに感じた。
 先生の隣りにいるというだけですごくドキドキして、花火の美しさよりも幸せな気持ちの方が強くて驚く。

 しばらく黙って花火を見ていると、カラカラとドアが開く音が背後で聞こえた。

「鬼頭先生」

 私と先生は同時に振り返った。

「水原か。どうした?」
「いえ、あの……私も一緒に花火見てもいいですか?」

 思わず鬼頭先生の顔を見てしまった。
 先生は相変わらずの無表情で水原さんの傍へと近寄る。

「何故だ?」
「何故って……」

 戸惑う水原さん。
 答えに困っているその姿に、私は胸が痛んだ。だってそんなの理由は一つしかない。鬼頭先生の事が好きだから一緒に花火を見たいに決まってるもの。

「答えられないのか?」

 冷めた口調で尋ねる先生の顔を悲しげに見上げる水原さんに、私は何か言おうと口を開きかけたが、それはすぐに鬼頭先生の声で阻まれた。

「この間俺は言ったはずだ。自分の都合のいいようにしか物事を考えられないようなヤツと共に過ごす時間など無意味だと」

 はっと口を押さえる水原さんは、俯いて震え始めた。

「それでは――お聞きしますが、どうして……小日向さんと一緒に見てるんですか?」

 その質問にドキリとしたのは私だった。先生が何と答えるのか、その答えを聞きたかった。