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私のやんごとなき王子様 鬼頭編

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 朝からやっぱり忙しくて、気付けば時計は夜の9時を回っていた。作業をしている部署は中断しなくてはいけない時間だ。

 私は午前中は医務室で鬼頭先生の手伝いをやって、午後からは真壁先生にこき使われてぐったりだった。重たい体を引きずって部屋に戻ると、明日の仕事内容をメモしたノートがない事に気付いた。

「あれっ? どこに忘れたんだろ?」
「どうしたの?」

 ベッドの上で本を読んでいたさなぎが尋ねる。

「うん、ノート忘れて来たみたいだから、取って来る」
「一緒に行こっか?」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと行って来るね」

 そう言い残して私は部屋を出た。
 生徒指導室を出て来る時は机の上にはノートはなかった。ということは医務室だろう。
 さすがにこの時間医務室は人はいないだろうから、一旦鬼頭先生の所へ行って鍵を借りなくてはいけない。

「は〜あ、きっとまたドジとかなんとか言われるんだろうなあ……」

 ボソリと言われるであろう言葉を考えながら鬼頭先生の部屋へ向かっていると、階段の下から話し声が聞こえて来た。

 私はゆっくりと階段を降り、そっと下を覗いた。
 薄暗い廊下の明かりの下、二人の男女が立っていた。その姿にほっとする。
 あ、ちょうど良かった、鬼頭先生と水原さんだ。医務室の鍵借りようっと。
 水原さんがいれば鬼頭先生もいつもの厭味は言わないだろうから、私はちょっと安心して階段に足を掛けた。
 すると、

「鬼頭先生、私……先生の事――」
「ちょっと待ちなさい」

 ビクリ

 私が言われた訳ではないのに、言葉に縛られたように私は動けなくなった。