私のやんごとなき王子様 鬼頭編
はあ……良かった。
ほっと胸を撫で下ろしていると、鬼頭先生がジロリと私を睨んで来た。
うわっ!
「す、すみません、ありがとうございました。助かりました!」
頭を下げる私に、先生はふんと鼻を鳴らす。
「まったく、お前のバカさ加減は呆れるを通り越して見事だな。少しは警戒心を持て」
―――あれ? もしかして私の事心配してくれてるのかな?
じっと先生の顔を見つめていると、ものすごく不機嫌そうにため息を吐かれてしまった。
「はあ……いいか、仕事中は仕事に集中しろ。それと、男が近づいて来たらまず距離を取れ」
そこで私は気がついた。
鬼頭先生って実は案外優しいんだって事に。
ちょっと、いやかなりひねくれてるから分かりづらいけど、この間私が先生の車の中でリップを落とした時も拾ってくれたし、なんだかんだ言って家まで送ってくれたし、今もこうやってナンパから助けてくれた。きっと人に優しくする表現が下手なんだ。
そう思うと、何だか急に鬼頭先生が可愛く見えて来た。
「くすっ。はい、ありがとうございました」
笑顔で答える私に、先生はさっきのメモ紙をビリビリと破いて押し付けた。
「ゴミだ、捨てておけ。それと、記者連中が帰ったらまたミーティングだそうだ。二度とぼーっとするな」
「はい!」
仕事は次々私にのしかかって来るけど、こうやって鬼頭先生の知らなかった一面を発見出来たりして、ちょっと生徒指導を選んで良かったかな。なんて思えた。
朝見かけた先生の眼鏡をかけていない素顔はいつもより優しげで、私の心の中にぼんやりとした何かを印象づけたようだ。
作品名:私のやんごとなき王子様 鬼頭編 作家名:有馬音文