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私のやんごとなき王子様 鬼頭編

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3日目


「先生、遅くなりました!」

 私は朝一番、教室に向かう前に職員室に立ち寄り、真壁先生に例の担当希望記入用紙を提出していた。
 頭を下げて用紙を握った腕をずいと差し出した格好のままで止まる私に、

「おう、決めたか」

 と、相変わらずの調子で笑ってそう言うと、先生は用紙を受け取った。次にそこに書かれた部署を見てニヤリと口の端を上げる。

「そうか、俺達の手伝いをやってくれるか! いやあ、助かる。正直お前が他を選んだら困るって思ってたんだ。人手が足りなくてなあ」

 そう言って私の頭をぽんぽんと叩いた。

「そうですか……今からこき使われるのが目に浮かびますね」
「ははっ! まあそう言うな。やりがいあるぞ。あ、そうだ。お前ちょっと鬼頭の所に行ってこれ渡して来てくれ」

 そう言って先生が鞄の中から出したのはB5サイズの茶封筒だった。

「あいつに借りてた本だ。朝のうちに返せって言われてたんだがちょっと仕事があって保健室まで行けそうになくてな。悪いがお前保健室に寄ってくれ」
「はい。分かりました。それじゃあ失礼します!」

 やっと清々しい気持ちが戻って来た。
 職員室から出て行く足取りも軽い。今なら誰よりも早く100メートル走れそうってくらい軽かった。
 今から苦手な鬼頭先生の所に行くっていうのも、たいして気にならないくらい清々しい。



*****


 私が選んだのは真壁先生や鬼頭先生がいる生徒指導。色んな担当の手伝いが出来るって先生が言うから、どこか選ぶ事が出来なかった私には丁度いいと思って決めた。
 まあ、鬼頭先生にいじめられそうになったら真壁先生に助けを求めればいいし、忙しいなら私をいじめて遊ぶ暇もないだろうし。
 でもそんなに忙しい所を自ら選んじゃって、私、大丈夫かな……。

「ちょっと……いや、かなり心配かも」

 一抹の不安を抱えながらやって来たのは例の保健室前。
 ノックすると相変わらずいい声で返事が返って来た。

「失礼します」

 鬼頭先生は窓際の観葉植物に水をやっていて、私が中に入るとこちらを振り向いて小さく笑った。

「どうした、小日向。そんなに俺に会いたかったのか?」