ネガティブガール、川
絶対に「好きな人」など作るまいと思っていた。私のような奴と付き合ってくれる人などいないし、私に好かれて嫌な気持ちにならない人はいないからだ。人を不快にさせるような容姿、陰険な性格、残念な学力、0に等しい運動神経……何処を取っても私は最悪だし、誇れるような趣味も特技も無い。
そもそも、男は苦手だった。男子からは蔑まれ、「キモい」「死ね」「こっちくんな」などという言葉を浴びせられた。初めは自分は何もしていないのにどうしてそんなこと言われるのかと思っていたけれど、暫く経って気付いた。私は悪いことをしている。「存在」しているのだ。中学に入ると同時に何も言われなくなったけれど、皆心の中でそう思っているということは分かりきっていた。
何の長所も無く、人に不快感を与え続けながら「存在」している。それは罪だ、と私は思う。悪いところは直さなくてはならないし、罪は償わなければならない。私は消えなくては! けれど、消えるにもやっぱり迷惑がかかる。私が死んだら家族は葬式をあげなければならないし、葬式にはお金が必要だ。私を知らない人達からは哀れみの目を向けられて、気まずい思いをするかもしれない。学校では、形式上全校集会が開かれて、黙祷をするだろう。私のせいで、皆が貴重な時間を無駄にすることになるのだ。
悪いところを直すことも罪を償うことも出来ない……私は何処までもクズだった。
そんな私に、彼は優しく声をかけてきた。
「私をからかうつもりなんだ」と直感的に思った。こうやって優しくしておいて、後で裏切って、私を絶望の中に落とすのだ。流石に高校にもなると嫌がらせも凝るのだなあ、この人が選ばれたのは罰ゲームか何かかなあ、可哀想に!
私は、彼にとって一番マシな接し方を考えた。私が無反応なら彼はからかわれることになるし、こんな奴にも相手にされないのかと落ち込むかもしれない。かといって私が嬉しそうに接してベタベタしたら、彼は罰ゲーム期間中、かなり不愉快な思いをするだろう。
私はその中間、「話しかけられた時だけ普通に会話する」を選択した。あくまで1人のクラスメートであり、友達でも何でも無い風に話す。人見知りな上に男性が怖い私にとって彼と普通に会話することは結構な難易度だったが、それも次第に慣れてきた。
彼は一向に私に「種明かし」しようとしない。そのまま時が過ぎていった。私は「話しかけられた時だけ普通に会話する」というルールを守りつつも、自分がだんだん彼に心を許していくのを感じた。
気が付けば、彼のことばかり考えるようになっていた。
彼に話しかけられると、自然と明るい気持ちになる。彼と話していると、ほんわかと幸せな気持ちになる。もっと話しかけてほしい。もっと彼のことを知りたい。彼に触れてみたい。彼に話しかけたい!
テレビを見ていても、勉強していても、ふと気が緩んだ隙に彼が頭の中に流れ込んでくる。それでも、暫くは自分の感情を認めなかった。認めたくなかった。「きっと私は彼のことが自分でも分からないくらいにストレスになっているんだ」などと、自分に向かって苦しい言い訳をした。けれどそんなはずもない。認めるしかなかった。
私は、恋に落ちたのだ。
作品名:ネガティブガール、川 作家名:aZ@休止中