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死に損いの咲かせた花は

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 やっと呼吸が整ったらしい信長に、左門は掴まれた袂を振ってさっさと離せと促す。気付いた信長は苦笑して手を離すと、手を膝の上に乗せて、今度は天を仰ぐようにして目を閉じた。
「……気を使わんでいい、桜」
「いえ」
「お前は誇りを失った武士を見たことがあるか?」
 そう言った信長の声は静かで、蝉の鳴き声ばかりが耳につく。
 信長の言葉は尋ねる形ではあったが、特に答えを求めている響きもなくて、左門は信長が口を開くのを待った。
「死のうは戦場と思い定めるのが武士ではないか。なのに、苦渋のものでもない、ただ怖気づいただけの降伏など、恥さらし以外の何物でもないと……」
 ゆっくりと目を開けた信長は、ここにはないどこか遠いところを眺めているように見える。
「……戯言だ。聞き流せ」
 そう言った信長の目は、なんとも言い難い色を帯びて左門を見返していた。しかしすぐに目元を覆い、仕草で去るよう促すと、信長はまた眠るような姿勢で静かに目を閉じる。
 その光景があまりにも不思議で、左門は立ち上がり軽く目を伏せると、その光景を記憶に刻むようにゆっくりと目を閉じた。
作品名:死に損いの咲かせた花は 作家名:葵悠希