小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

春雨02

INDEX|6ページ/6ページ|

前のページ
 

「そういう考え方がばからしくなるかもしれないだろ? 『どうしても辛くて忘れられない人』って思ってるのもばからしい事かもしれないだろ?」
「あんまりばかばか言わないでください。私だってそんなこと分かってますよ。それでも今はそれじゃ済まないんです。他人にとってばかな事でも、私が今苦しんでることに代わりはないんです。ばからしいからってなかったことには出来ないんです」
 他人にとってはささいなことだと分かってる。それでも、簡単にあきらめられるような気持ちではないのだから。
 だったら最初から、こんなに苦しんだりしない。
「お前の気持ちは変わらないと思うよ。そうじゃなくてさ。だからこそ…」
 念を押す様に先輩は繰り返す。私が何を分かってないと言いたいんだろうか。
「『あいつ』にいつまでも執着してるんじゃねえよってこと」 
 その台詞に、胸が突かれた。



 それから、どうやって帰ったのか、良く覚えていない。
 先輩に言われたあの一言が頭について離れなかった。あの言葉の時だけ急に顔つきと口調が変わった先輩。何故か、しかられた様な息苦しい気持ちになった。先輩が本当は私に対して苛立ちを抱いていたのかもしれないとふと思った。
 先輩は、あの後も一見普通に接してくれていたのに、私は少しよそよそしい態度をとってしまったかもしれないと思う。きっと私のために言ってくれたのに。 
 こういうところが子どもだなと思う。私は素直に言葉に反応してしまう。自分の為にわざときついことを言ってくれたのに、それが分かっていても、きついことを言われると辛い。これじゃ先輩の方が悪者みたいじゃないか。
 今度謝らなきゃ、と思う。きっとあの人は「何で謝るの?」と眉をひそめるのだろうけど。
 先輩にはいつも振り回される。からかわれたり、いじめられたり、優しくされたり、先輩ぶられたり(実際先輩なんだけど)。そして色んな話をされたり。
 今日言われたあの台詞には当分振り回されそうだ。つらさは幾分和らいだけど、胸に突き刺さったことにかわりはない。
 それからもう1つ、先輩が帰り際にぼそっと言っていた言葉。
『俺も昔、そう思ったんだよ』と。
 先輩にもなにかがありそうだと。そう思った。   
作品名:春雨02 作家名:酸いちご