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あなたの好きな、 【 side others 】

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「あれっ、橋姫さま? ・・・あ。別に森下避けとかじゃないんです。ただほら、兄さんに聞きまして」
「森下ぁ? あの幽霊大好き男は避けといて良いわよっ。むしろケイイチがなにほざいたって!?」
「はい。あの祭は元々あなたのために始まったものだと」
「え、」
 なにそれ。初耳なんだけど。
 お盆も過ぎたこの時期にもよおすのはこの橋が出来上がったのがそれくらいだったからだとか、あの打ち上げ花火はここより上流でやってるような灯篭流しの代わりなんだとか、だから必ずここから見える位置で打ち上げてるんだとか。なにそれ。
 じゃああれあたしの供養とかなんかそんなんなの。
 一気に何かが抜け落ちた気がした。キモチワルイ。なにそれ。いやだ。そんなのいらない。灯篭流しでいいじゃない。みんなと同じように、迎えて、送ってくれたらいいじゃない。無理にくくる必要なんてもうないでしょ、山まで行けばダムがある。なんで、ずっと、ここで、
 うつろになりかけたあたしの耳は、それでもまだ音を拾っていた。いわば誕生日のお祝いみたいなものですね、ってなんか正反対っぽいことを言ってるみたいだ。ケイジが。
「なに、それ」
「小学校の頃習いましたよ、この橋が出来てこの街が始まったんだと。流通って発展には重要ですもんね。現代だってここ車も人もいっぱい通るでしょう。交通要所って言うか、架け替えてる間、本当ずいぶん不便でしたよ」
「苦情とかあたしに言われても困るんだけど」
「苦情じゃないですよ。あなたがここに架かっててくれて嬉しいって話です」

 なによ、なんなのよ、それ。
 カナエと同じこと言うとか本当に、あんたは。

「これでも時々通らせてもらってる身ですからね。敬意くらい持ってますよ一応。こうして話もできるんですし、今年はあなたの好きなものでも贈りましょうか」
「今年じゃなくてもいいわ。いいから、カナエ連れてきていっしょに花火を見させてちょうだい。あの子と見たいの」
 ケイイチと森下さえいなければ細かいことは言わないと付け加えると、ケイジは「善処します」と苦笑した。


 あたしの好きな物はカナエと花火よ。
 あんた達が3人で花火を見に来たあの日に好きになった。カナエが花火を好きだったから、あたしも好きになった。
 カナエが好きなのは花火だけじゃなかったけど、それはまあ、きっと、あたしには関係のない話だわね。