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あなたの好きな、 【 side others 】

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【 telephone box 】



 もう日が落ちて、だけど蝉がジージー鳴き続けてるそんな時間。私の目の前では二人の男の子がおしゃべりしてる。呼び出したのは森下君で、呼び出されたのはケイちゃんだ。ここは二人の家の中間地点なんで、定番の待ち合わせ場所なのね。この数年はいつでも暇な私は、いつものように興味津々で二人の会話を聞いていた。

「―――そんで、肝試ししたんだけど。おまえいないとやっぱダメだわー、マジでケイタイ買えってほんと。友達少ねーわりにふらふら出歩いてる率高すぎんだよおまえ」
 森下君は悪い子じゃない、むしろいい子だと思う。けど、どうしたって口が悪いのね。
 商店街のはしっこの、シャッターの閉まったお店の前でしゃがみこんで愚痴る彼は、だけど本当に口が悪いだけの子だから、多分ケイちゃんのことを心配しているんだろうとは思う。彼いわくの「ケイちゃんの数少ない友達」の一人なんだし。ただね、森下君がケイちゃんと友達なのは多少の下心もあるんだよ。
「それなりには盛り上がったんだけどさー、その肝試し。やあっぱホンモノ感がイマイチでさー。おまえ的にはこの町のお勧めスポットってどこよ。最近のうわさじゃ市役所周りがあやしいんだけどよ!」
「いや、市役所にはあまり用がないし知らないな」
「じゃあ今度連れてくから見てくれよー。見えんだろ?おまえ。羨ましーよなあーっ」
「・・・そうか?」
 首をかしげたケイちゃんと目が合う。ほんのりと苦笑してみせる彼に私も笑ってみせた。大変だね。

 森下君は怪奇現象とかそういうのが大好きな子だ。いわゆる霊感?みたいな物も少しはあるらしくって、たまに何もなさそうなところに目を向けるケイちゃんに一方的に何かを感じてしまってからはあんな感じで絡んでくるらしい。レポートに使うって資料を借りて帰ってく時にはあっさりしたものだったけど。
「あいつにも何度か言ってるんですけどね。僕は幽霊が見えるわけじゃないって」
 さっきまで森下君がいた道端に同じようにしゃがみこんで言うケイちゃんは、やっぱり苦笑いなままで私に目を向ける。それが私は、ううん、きっとみんな、とても嬉しいから。
「ねえ、ケイちゃん。ケイタイ買ったら?」
「・・・森下に呼び出しまくられるのはちょっと嫌かな」
「私は呼び出さないけど、ケイちゃんと電話してみたいよ?」
 ちょっと勇気を出して言ってみた言葉は、いつも淡々とした彼を驚かせたみたいだった。
「そういうことできるんですか」
「やったことないけどできると思うよ。相手がケイちゃんなら」
 だから僕にはそんな霊感ないんだけどな、ってぼやくケイちゃんには悪いけど、そんなあなたに私達はとても救われてる。会うこともない私の同類たちはみんな、きっとあなたのことが好きだよ。・・・普通のお友達が増えたら目をあわす機会ぜったい減っちゃうに違いないのに、ケイちゃんのためにはそのほうが良いよね、って思うくらいには。
 そんなケイちゃんと電話しちゃうなんてすごい抜け駆け?とか思うけど、それは私の生まれの特権っていうか、ライバルを買えって言ってる時点で多少は許して欲しい。時代の流れってのだって分かってても、これで結構つらいんだよ。だいたいケイタイが一人3台なんて時代になったら私も撤去されちゃうかもなんだしね、って暗いこと考えてたら、ケイちゃんがほこりを払いながら立ち上がった。そうだよね、一人でこんなとこ長居してたらおかしいもん。いくら私の明かりがあっても、
「あなたが、」
「え、なになになに」
 キョドってる私にまた苦笑い。
「あなたがそう言うなら、考えてみようかな、って」
「え・・・と。ケイタイ?」
「まあ森下からのは適当に切ればいいんだし。そこの番号に普通にかければ良いんですかね」
 さらりとひどいこと言って、今度は普通に笑った。ちょ、反則だよそれ。
「・・・私がケイちゃんの番号知ってたら取れると思う。そうじゃなかったら普通にかかっちゃう、かな」
「だったら、買ったら教えに来ますよ」
 それじゃ、また。って小さく手を振ってくれたケイちゃんにぶんぶんと手を振る。すぐそこが曲がり角だけど、なるべく身を乗り出して見送った。

 ケイちゃんの普段を私は知らない。私みたいなのはきっと“普段”に含まれないから、あの笑顔が“特別”かどうかは分からない。・・・特別じゃないといいな、って思った。森下君みたいな子がいっぱいいるといい。私はここから動けない。それが役目で、当然で、誇りなんだけど。
(きっとこれは私じゃなくて、あの娘の想いなんじゃないかなあ・・・)
 ここから駆け出して、あの笑顔を独り占めしたいなんてね。本当に、私が考えることじゃないんだよ。数年前の、ここから何度も電話してくれた女の子のことを思う。また来て使ってくれたなら、そのほうが絶対嬉しいのに。
 ため息をついても気が付いてくれる人はここにはいない。森下君だったら、きょろきょろくらいはしてくれるかな? ぼんやり思いながら仕事に戻る。誰かに連絡を取りたい人を待ち続けるお仕事。ケイタイが使えない人の役に立つお仕事。ケイちゃんは知っているのかな。“私”がどうして生まれたのか。だから、優しいのかな。そうだったら、・・・少しだけせつないけど、嬉しいんだけどな。

 ねえ、“カナさん”。私あなたのことも大好きなんだよ。