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私のやんごとなき王子様 真壁編

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「うわあ……大盛況!」

 私は入場者にパンフレットを渡す仕事を終え、ホールの客席へと入った。
 学園内に併設されているこの演劇場は、休日には海外のバレエ団や交響楽団なんかが来て使う事もある本格的な劇場だ。
 もちろん学園所有の物で、建設を進めたのは理事長らしい。
 客席は全部で1000席もあるなかなか大きな劇場だ。
 学園の父兄はもちろん一般のお客さんやマスコミも合わせると、その1000もある座席は立ち見が出る程満杯だった。

 こんなにたくさんの人が、私達が作り上げた劇を見るんだ。
 去年、一昨年と同じようにやって来たはずなのに、今年は緊張感が違った。それはやはりこれが高校生活最後だからかもしれない。

「おう、小日向」

 声をかけられ振り向くと、真壁先生が笑顔でやって来た。

「先生。お疲れ様です」
「そっちは終わったか?」
「はい、一年の子が代わってくれました」
「そうか……いよいよ始まるな」
「はい―――」

 私と先生は二人でまだ幕の開けない舞台へ目を馳せた。

「なんか、自分が出る訳でもないのに緊張して来ました」
「お前が緊張してどうする。大丈夫だ、皆あんなに頑張ったんだからな」

 先生の言葉が面白い位すうっと私の中に入って来て、私は合宿で本当に頑張っていた生徒皆の顔を思い出した。
 うん、そうだよね。皆この日の為に頑張って来たんだもん。きっと成功する!


*****

 色鮮やかな衣装に身を包み、目のくらみそうな強烈なスポットライトを浴びて迫真の演技をする生徒達。
 背後にはこちらもまた美しい湖の絵が舞台に花を添え、観客を物語の中へと引き込んで行く。
 悲しいこの物語の終焉を迎えるに相応しい音と照明に、誰もが息を飲んだ。
 
 私は客席や舞台袖から沸き起こる大喝采を遠くに聞きながら、しばらく呆然と立っていた。
 知らずに強く握っていた手のひらは汗でびっしょりと濡れていて、ゆっくりと降りて行く緞帳(どんちょう)がぐにゃりと歪んで見えた。
 そう、私は感動して泣いていたのだ。