魔宝ハンターは一日にして成らず
ママに頼むより、食べた方がましってことね。うん、それがいい。いくら好物とはいえ、ママがそれを受け取るとは思わないし。益々ご機嫌を損ねるってことにも、なり兼ねない。
そんな些細な事件を挟んだ、ちっとも盛り上がらない食事がようやく終わって、ママが口を開いた。
「相変わらずですね、お前達」
ママの薄い青色をした瞳が、あたし達をねめつける。
部屋の温度が一気に下がったのは、絶対気のせいじゃない。
天国のパパ、助けて!
あたしはこういう時、いつもこう唱えることにしてる。実はパパが死んだのか生きてるのか…更には、パパの顔すら知らないんだけどね。
さすがのあたしも昔、ママに聞いたけど
『お前に昔、父親は居ました。でも今は居ません』
の一言で片付けられてしまった。
なのでとりあえずあたしは、パパは病気で死んじゃったと仮定してる。生きてるなら、一度くらい会いに来てると思うから。
「努力を忘れた天才少年」
ママはヒイリの方を向いて、言った。
うわ、きつい。
「楽することばかり考える娘」
今度はあたしの番。本当のことだけに、しゅんとしてしまう。
「お前達、もう立派な魔術師になることは諦めていることでしょう」
ママは急に懐を探り、紙切れを取り出した。
紙切れ…じゃない、何か書いてある。
「考えてみなさい」
テーブルに謎の紙を残し、ママは立ち上がって行ってしまった。
ママが行ってしまったことを確認して、あたしは紙を手に取る。
そこには赤い文字で“魔宝ハンター大募集”と在った。
「何じゃこりゃ」
「おいリセ。湖で話そうぜ。城内で話してたら、ヨーラリ様に…」
そうそう、ヒイリの言う通り。
この城は、先代の持ち主が話したことを城主に伝えるよう、壁に魔法を掛けてしまっているのだ。話したことと言っても、魔法に関することだけ。先代の城主は、使用人や家族の叛乱でも恐れていたのかもね。
そんなこんなで、あたし達のプライバシーは微妙に侵害されている。別に普段、魔法について大したこと話さないけどさ。
「そうだね」
ママに提案されたものについての話し合いなんだから秘密もへったくれもない気がするけども、一応ね。
というわけであたし達は食器を片付け、湖に向かうことにした。
作品名:魔宝ハンターは一日にして成らず 作家名:May