彼女のトモダチ
「駄目っていうか、その……私、阪井君のこと、何も知らないし……」
美波の言葉に、阪井は頷く。
「はい……最初からわかってました……でも、僕はずっと見てたんです」
「……」
「残念ですけど、まだ早かったみたいで……すみません。今度の大会、頑張ってください。ありがとうございました!」
阪井はそう言うと、そのまま走って去っていった。嬉しいような残念なような、不思議な感覚が美波を包む。
「やっぱり駄目だったか……」
その時、そんな声が聞こえ、美波は驚いて振り向いた。するとそこには、田村がいる。
「田村!」
「だから時期が早いって言ってんのに、聞かないんだからな、あいつ……」
「聞いてたの? 知ってたの?」
ムッとするように、美波が田村に詰め寄る。一体、いつからそこにいたというのか。
「最初からいたよ。あいつが告るの知ってたから……あいつ、ずっとおまえのこと気にかけててさ。何度も相談されてたけど、考えてみれば俺も鈴木のこと何も知らなかったから、アドバイスなんて出来なかったけど」
苦笑して言う田村に、美波は悲しくなった。だが、そんな美波をよそに、田村は話を続ける。
「駄目かな? あいつ、いい奴だよ。将来エースになると思うし、優しいしさ。まずはこれから、友達としてでも付き合ってやってくれれば……」
その時、田村は美波の様子がおかしいことに気が付いた。俯いている美波の顔は、陰になって見えないが、肩を小刻みに震わせている。
「……鈴木?」
田村はそこで初めて、美波が泣いていることに気付く。
「す、鈴木。ごめん、俺……」
田村がそう言いかけたところで、美波は走り去っていった。
悲しかった。悔しかった。美波はそのまま、学校を飛び出していった。