彼女のトモダチ
夜。美波は宿題を終えると、ベッドに寝そべった。どうしても離れない、田村の顔。そして千笑の姿。千笑の様子が気になって仕方がないが、美波はそのまま目を閉じ、今後どうしたらいいのかを考えた。
「もう嫌だ。ヤバイよ、ホント……どうして? 頭から離れない……」
脳裏に浮かぶ田村の顔を振り切るために、美波は集中して他のことを考えようとした。しかし、他に思い出すことといえば、千笑のこと。見知らぬ男性とは、どう見ても恋人同士のように見えた。男女のことに疎い美波には、恋愛や浮気など、すでに脳内のキャパシティーを超えている。
その時、部屋のドアがノックされた。と、同時に、声が聞こえる。
「美波。お母さんから、洗濯物」
三歳年上の姉の声である。
美波がドアを開けると、両手一杯に洗濯物を抱えた姉が立っていた。
「ごめん、お姉ちゃん」
「いいよ。じゃあね」
「あ、お姉ちゃん。ちょっと……相談があるんだけど……」
首を傾げた姉を部屋に引き込むと、美波は思い切って口を開いた。
「なによ。どうしたの?」
「あのね……今日、彼氏がいる友達が、彼氏じゃない男の人と歩いてるの見かけちゃったの。これって、浮気かな……」
ためらいながらも言った美波に、姉は天井を見上げて考えた。
「その友達って、もしかして千笑ちゃん?」
「ち、違うよ!」
「へえ。あんたも千笑ちゃんのほかに、友達いるんだ」
「うるさいなあ。もういいよ」
からかい半分の姉に嫌気が差して、美波は口を尖がらせ、ふてくされた。
「ごめん、ごめん。まあ、一概に浮気とは言えないんじゃない? 私だって男友達と二人で会うこともあるし。しばらく様子を見てたらいいじゃない。その彼氏とは、端から見てうまくいってるんでしょ?」
「……うん。たぶん」
「じゃあ、いいじゃない。あんたが口出すことじゃない」
その言葉に、美波は押し黙った。確かに自分がしゃしゃり出ては、余計に混乱させるのではないかと思う。
「うん……」
「まあ、そんなに気になるなら、直接聞いてみたらいいじゃない。友達なんでしょ? 案外、単純なことかもよ。そんなことより、あんたの恋愛はどうなのよ」
「その話、今関係ない」
「あるある。あんたももう年頃でしょ。彼氏の一人や二人作らないと、お母さんも心配するよ。お父さんは反対するかもしれないけど」
苦笑して、姉が言う。
「お姉ちゃんに言ったのが間違いだった……」
「なによ、それ」
「ううん……おかげで少し楽になった。ありがとう、お姉ちゃん」
「いいよ。じゃあ、おやすみ。早く寝なさいよ。大会近いんでしょ」
「うん。ありがとう……」
姉はそう言うと、美波の部屋を出て行った。美波はベッドに寝そべると、目を閉じた。姉の話は参考になったのかはわからない。だが、しばらく様子を見ようと思った。
「そうだよ。あの二人はうまくいってるじゃない。田村のことも、意識しないって決めたじゃない。一年間やってこれたんだもん。大丈夫……田村は野球部エース。カッコ良く映ってるだけ……きっとみんなだって、そうだよね……?」
自問自答するように、美波は何度も頭の中でそう言い聞かせた。