双子の王子
「南方の商業国、ナヴァラック。今の国王は私の兄、つまり貴方たちの伯父さんにあたる人なの。仕事に関しては冷たくて厳しい人だけど、近しい身内には甘過ぎるくらい優しい人だから、助けてくれると思うわ。尋ねるときは表からではなく、裏の通用門からこっそりと、ね? 表から入ると仕事相手と見なすって決めてるから、身内や友人はそうすることにしてるのよ。その指輪を見せれば分かってくれるはずだから、頑張って」
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ。それより――本当に長いこと引き止めちゃったわ。ごめんなさい。それで、ソル、これからどうするの? 逃げるって言ってたけど、いったいどこまで、いつまで逃げるつもりなの?」
「はっきりしたことは分からないけど、」
と前置きしてソルは言った。
「ついでだから、見聞を広めたいと思ってるんだ。だから、どうなるかは分からない。スウォードの……いや、俺自身の怒りが収まったら戻ってくるつもり」
「……変なの」
「は?」
「ルナは全然怒ってないのに、ソルの方がかんかんに怒ってるのね。貴方たち二人を混ぜて、もう一度ふたつに分けたらちょうどよくなるんじゃないかしら?」
「……母上…」
「冗談よ。そんな恨みがましい目で見ないでちょうだいな」
明るく笑って、レティアは窓を開いた。
「うん、大丈夫のようね。下にも隣にも兵士の気配はないわ。今のうちに逃げなさい」
「…分かった。ルナ、行くぞ」
「はい」
再び宙に浮いた二人は、もう一度母を見つめて言った。
「…行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
本当に穏やかにレティアは言った。
まるで、子供が近くの広場にでも遊びに行くのを見送るかのような調子で。
子供たちは笑みを返し、夜の闇の中へと消えていった。
その姿が完全に夜闇に紛れ、見えなくなってしまってから、レティアは窓を閉めた。
そうして、硬く拳を固めると、先ほどまでとは打って変わって酷く残虐そうな笑みを浮かべて言った。
「…さて、と……あの困った父親をどうしてくれようかしら…?」
そう言いながらもすでにやることは決まっているかのようだった。
それを証明するように、レティアの拳が打ち合わされ、乾いた音を立てた。
「大人しく待ってなさいよ…スウォード……!」
まさに鬼神のごとき形相で、美しいと評判の王妃はそう唸ったのだった。