虹という物語
0.2 赤眼の女
「はぁ・・・、はぁ。こわい・・・、助けて・・・!」
シンナテルカが今、逃げているのは、こんな 助けを求めているのは、これから3時間前のことだ・・・。
「助けて、助けてゼン!!」
そう叫んでも、その声は空に消えるだけだった。そして、その声に驚いた立ち番の兵士の方たちは私に声をかけた。
「どうかなされましたか?!」
「い、いえ!気にしないでください!!」
そうですか、と兵士たちはそれから話しかけてくることはなかった。
しかし、本当に困ってしまった。もし、これが本当のことだったならば、今すぐここから逃げなければならない。
窓から逃げようにも、私がいる部屋は結構高い位置にある部屋で、命づなになりそうな物はカーテンぐらいしかなく、窓から逃げるのは無理そうだった。
こんな時、ゼンがいれば。そう思っている時、突然扉の向こうで大きな音がした。ゴンッと鈍い音が聞こえる。
「・・・どっ、どうしました?!」
私は兵士の方が突然倒れたのだと思い、もし倒れたのなら私が助けなきゃ!そんな気持ちで扉の方におそるおそる近づいた。すると、私の目の前で扉がぶち破られる。
「きゃッ・・・?!」
「おはようございます、お嬢様♪うっふふふ・・・・・。」
扉の向こうには、赤い瞳を輝かせている女性がいた。そして、両手には立ち番の兵士たちが握られていた。よく見ると、この2人、刃物で首を刺されている。
私は驚きのあまり、声を出すことができなかった。すると、赤い瞳の女は両手の兵士たちを投げ捨てると、私に2つの刃物を向けてきた。
「ふふ、ごめんね。私、あなたを殺すわ~♪」
2つの刃が私をめがけて突っ込んできた。危険を感じ取った私は、ふと、目に入った赤いかさを手に持つと、おもいっきりかさをふった。
「近寄らないで!衝波!!」
私の結晶燃料が輝き、衝撃波が相手の腹部に当たった。
「きゃあ?!」
女は、突然繰り出された衝撃波に驚き、避けることができず、吹き飛ばされた。奥の壁に当たると、苦しそうに私を睨んだ。
「くそ・・・!やったわね・・・!!」
私は女のあからさまな殺気を感じ、走り出した。
「闇黒の光よ、今宵を貫け!」―――ダークネス!」
女が呪文を唱え終わると、私めがけて黒い光が飛んでくる。
私はその光を避けると、ただ、おもいっきり走った。後ろからは、女のうねり声が聞こえた。
そんなことで、シンナテルカは今も逃げ続けている。後ろから女の気配はしなかったが、シンナテルカは恐ろしくて止まることはできなかった。
(ゼン、ゼン・・・!助けてください・・・!助けて・・・・・!)
心の中で一番頼れる人物の名前をつぶやいた。そして、兵士の部屋が集まっている所まで来ると、きっとゼンが助けに来てくれる。そう信じてゼンの部屋に潜り込んだ。
ゼンたちは、城の入口付近を探索したあと、二手に分かれて 探索することになった。
総隊長は、地下の実験室や兵士たちの食堂などがある階を、ゼンは兵士たちの部屋が集まっている所、皇族の部屋が少しある階をまかされた。
まず、シンナテルカの部屋を見ることにした。戻っているかもしれないからだ。そこまでに行く道は、だれとも会わず、人の声も聞こえず、不思議な感じだった。
しかし、シンナテルカの部屋を見た瞬間、そんな気分は一気に吹き飛んだ。
「シンナテルカ様!!」
ゼンはそう叫ぶと、ぶち破られた部屋を走っていき、中を見た。そこには、首を刃物で刺さされた兵士が倒れていた。
「姫!姫!」
必死になって探したが、どこにも見当たらなかった。
廊下を見ると、部屋の正面の壁にひびが入り、そこから黒い足跡が始まっていた。黒い色。それは・・・、血だった。
その足跡は、兵士の部屋やゼンたちの部隊の部屋がある方向へと向かっていた。ゼンは、この足跡をシンナテルカだと思い、いそいでその足跡を追った。
しかし、その足跡は兵士たちの部屋の途中で消えていた。あと少しでゼンたちの部屋という所で。ゼンは希望をかけ、シンナテルカの名を叫んだ。
「シンナテルカ様!!」
しかし、何も返事はなかった。ゼンが途方に暮れて立ち去ろうとした時、かすかにゼンの部屋から物音が聞こえた。
―もし、姫にとって自分が大切な存在なら
―ゼンがきっとは助けてくれると思ってくれているなら
ゼンは、自分の部屋の前に立ち、扉を開けた。
「ゼン!!よかったぁ・・・。信じてました・・・!」
扉をあけると、シンナテルカはゼンに抱きついた。
「え、ちょ・・・!ひ、姫?!」
ゼンは無理矢理シンナテルカをひきはがすと、どうしてこんなことになっているのかを尋ねた。
シンナテルカはこれまで起こったことを説明した。
「そうだったのですか・・・。・・・申し訳ありませんでした。」
ゼンは守れなかったことを悔やみ、シンナテルカに土下座した。一方、シンナテルカの方はというと、なぜ謝罪をされたのか、分かっていないようだった。
「どうして、謝るんですか?」
「・・・それは・・・、あなたを守れなかったから・・・です。」
シンナテルカは、少しぼーっとしていると、微笑んでこう言った。
「私は、あなたにこうして名前を呼ばれているだけでうれしいですし、・・・救われました!」
ゼンはその言葉を聞き、少し驚いていたが、その後すぐに微笑んだ。
そして、シンナテルカの手をとった、とその時、シンナテルカの表情が豹変した。その顔は、恐ろしいものを見たような表情だった。そして、震えだした。
「・・・い、いや・・・。やだ・・・!」
「どうなされたんですか?!」
突然、背後からものすごい殺気を感じた。それと同時に女の声が聞こえた。
「よくもやってくれたわね!お姫様ぁぁぁぁ!!」
ゼンが後ろを振り向くと、おそろして顔をした女が刃物を持って立っていた。
そして、その女はゼンの顔目掛けて刃物を振り下ろした。
「ゼン!!あぶないです!!!」
そこで、シンナテルカはゼンの首根っこを掴むと、部屋の奥に投げ飛ばした。刃物がゼンの蒼色の髪をかすめた。シンナテルカをかさをかまえると、技を繰り出した。
「飛び散れ!時雨!」
シンナテルカが勢いよくかさを開くと、そのかさから無数の光の雫が弾けた。
そして、その光の雫は女の体にぶち当たると、女は軽い悲鳴をあげた。女は構え直すと、シンナテルカに向かった。
「お姫様。あなたがそこまでするなら、私も遠慮なしよ・・・?」
女は刃物を姫に振り下ろした。シンナテルカはその刃物をかさで受け止め、何度も繰り出される攻撃、技に何度も耐えた。
しかし、シンナテルカの体力はどんどん削られていった。
「ふふ、ふふふ・・・。大丈夫?・・・双連波!」
突然の技にシンナテルカは軽く吹き飛ばされ、構えがくずれた。女はそこを狙い、思いっきり刃物を振り下ろす。
その時、ゼンが突然飛び起き、衝撃波を放った。
女はシンナテルカに攻撃するのを中断し、ゼンに向かった。
「そんなの効かないわ!!」
「甘い!!」
女はシンナテルカにもやられたような衝撃波を、華麗に消し飛ばしたかのように見えたが、その衝撃波を消した瞬間、隙ができ、そこをゼンは攻撃した。