私のやんごとなき王子様 三島編
「……本当にあの配色で大丈夫かな?」
印刷所を出た後も、どこか不安で私は思わず呟いた。だって星越学園演劇祭のパンフレットを手に取る人数を考えたら……。
「間違いなく素晴らしい物になるよ。俺が保障する」
三島君ははっきりとした口調でそう言ってくれた。
「きっとあの偏屈な芸術家だって気に入るさ」
土屋君の事ね。
「ふふっ」
「ん? どうした?」
「ううん、なんでも」
三島君ってば相変わらず土屋君が苦手なんだなぁ、なんて少し顔が綻んでしまう。一年の頃から、規律を重んじる三島君と自由奔放な土屋君は折り合いが悪かったのだ。
でもこうして演劇祭で彼の絵がパンフレットの表紙を飾るとなって、そうしてその校正にこんなにも真摯に向かえる三島君が私には誇らしく感じられる。
「さ、学園に戻ってもまだまだ仕事は山積みだ。気を抜かずに行こう」
「はいっ!」
三島君の隣を歩きながら、私は気持ち良く返事をした。
*****
学園に戻ると、合宿中の注意事項や点検項目、各担当用スケジュール調整やその他雑用等のチェック表を三島君から渡された。実行委員はこれらの項目全てを常にチェックして回らなくてはならない。う……本当に大変そうだなぁ。
「我々はミスする事無く動く事が最重要課題だ。誰かがミスをした場合は、早急に対応して欲しい。演劇祭まで大変な日々が続くと思うが、各自体調管理だけは怠らないように」
「はいっ!」
三島君の言葉に実行委員全員が大きく返事をする。彼からは思わず周りの人間の背筋を伸ばすような――そんな厳格な雰囲気が漂っている。
私も、足手まといにならないようにしなくっちゃ!
チェック表を大切に鞄にしまうと、私は急いで下校した。
家に帰ったら、合宿の荷造りしなくっちゃ。昨日まで担当を決めるのに精いっぱいで、まだ荷造りも済んでないのよね。我ながら手際の悪さに涙がでそうっ。
作品名:私のやんごとなき王子様 三島編 作家名:有馬音文