私のやんごとなき王子様 三島編
午前、午後と各担当責任者同士との連絡係として宿舎中を走り回り、気付けばすっかり夜だった。
廊下には人も少なくて、皆それぞれ部屋に戻ってたり遅くまで作業していたりするんだろう。私は足早に階段を昇る。
あれ?
ふと人の話し声が聞こえて来て私は足を止めた。
辺りを見回してみると、丁度実行委員本部のドアから明かりが漏れていた。三島君、まだいるのかな? だとしたら今日の各担当の修正とかを報告しておきたいな。
とそんな気持ちで薄く開いたドアに手を掛けた時だった。
「私、会長の事が好きなんです……」
――え?
私は思わず息を飲んだ。真摯な思いがこちらまで伝わってくるような静かな声は、水原さんのものだ。
「水原君」
細いドアの隙間から見えたのはすごく困った顔をした三島君と、その前でじっと三島君を見つめている水原さん。
その緊張がこちらにまで伝って来るようで、私は指一本動かすことも出来なかった。
「会長はいつも的確に私を導いてくれます。会長に自分をゆだねると、すごく安らぐんです。こんなに慌ただしくて、トラブルも絶えない合宿中であってもです。絶対の信頼で持って、私は会長について行けます」
水原さんの言葉に私はドキリとした。
同じだ。水原さんも私と同じ気持ちなんだ……。
三島君はいつでも私達が一番動きやすいように気を使ってくれる。実行委員だけじゃなく、全体を見て一番良いと思われる方向に導いてくれる。
だから私達は絶対の信頼で従える。それはとても――
ううん、違う。
私が好きなのはそんな事ばかりじゃ無い。
私が好きな三島君は、もっと自由に笑ったり困ったり……一緒に海に行った時に見せてくれた、はにかんだあの笑顔。あの時のあんな風な三島君の素の姿が私は――
私は……三島君が好きなんだ。
作品名:私のやんごとなき王子様 三島編 作家名:有馬音文