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私のやんごとなき王子様 利根編

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「怪我がなくて本当に良かった……だけどあのバイクは危ないな、今度見かけたら注意しておかないと」

 そう言って止まる事なく走り去ったバイクの消えた方を睨んで言う利根君に、私は思わず笑ってしまった。

「どうしたの?」

 私が顔を赤くしていたと思ったら急に笑ったものだから、利根君が不思議そうな顔をしている。

「ふふっ。だって……利根君が怒ってるの初めて見たんだもん」

 そう言えるほど利根君のことを知っている訳ではないけど、でも学校での利根君を見る限り彼が怒っているのを見た事は一度もなかった。
 だから今、どこの誰とも知らない相手に腹を立てている利根君が新鮮で、私はそんな新しい利根君の一面を見る事が出来て嬉しかった。

「俺だって人間なんだから怒ることもあるよ」
「そうなの? 利根君いつも穏やかだし、優しいし、怒る事なんてないと思ってた」
「……小日向さんは誰かに腹を立てる俺を見て、幻滅した?」
「まさか。ちょっと貴重な利根君が見られて、嬉しかったよ」

 私がそう言って顔を上げると、利根君がすごく綺麗に微笑んだ。

「本当に助けてくれてありがとう。利根君は命の恩人だよ」
「大げさだな、誰だってきっと同じようにするよ」
「ううん、そんなことない。命の恩人に、お礼にそこのカフェでお茶をご馳走したいんだけど……ちょっと安すぎるかな?」

 利根君は少し首を傾けて苦笑すると、

「別におごってもらうような事はしてないんだけど……でも小日向さんと一緒なら楽しいし、折角の申し出受けようかな」

 そう言って私を促した。
 それに誘導されて歩き出した私は、絶対にまた利根君と出かけたいなあ。なんて欲を出してしまった。