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私のやんごとなき王子様 利根編

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 さっき水原さんの事を好きにならないのには理由があるって言ってた。だから、利根君の答えは嘘じゃないんだろう。でも、それでも同じ人を好きになった女の子として、水原さんの苦しさが痛い程分かる。あんな言い方されたら、私は立ち直れないかも知れない。

「小日向さん?」

 ぐっと方に力を込めて俯く私を、利根君が気遣ってくれる。
 こうやって優しくしてくれる利根君の事が好き。だけど―――

「ごめん、利根君は悪くないって分かってるけど、やっぱり水原さんの事が心配なのっ!」

 私はそう言い残して花火に背を向け走り出した。

「水原さんっ!」

 宿舎へ戻る途中の林道で、水原さんに追いつく事が出来た。声を掛けたものの一体私は何を言うつもりなの?
 私の呼びかけに足を止め、こちらを振り返った水原さんは目に涙を溜めてぐっと堪えていた。

「どうしたの? 利根君を置いて来たの?」
「あの、私……」

 口ごもる私に、水原さんはふっと視線を横へ逸らした。

「利根君の事を誰よりも好きなのは私だし、利根君に相応しいのも私……そう思ってた。でもね、誰にでも優しい利根君だけど、少しだけ違うっていう事に本当は気付いてた――」

 寂しそうにそう言うと、水原さんはまたくるりと肩を返した。

「正直とても悔しいわ。でもね、あなたに憐れまれるほど私は落ちてない……利根君を置いて来たんでしょう? 早く戻ったら?」
「水原さん」

 私はもう追いかける事は出来なかった。私は水原さんを憐れんで、自分が傷ついた時の保険にしようとしていたのかも知れないと思ったから。

 さっきの利根君の言葉がよみがえる。『僕はそこまで偽善者でいたくない』なんて正直で強い言葉なんだろう。


 力がすっかり抜けた私は、すっかり姿が見えなくなった水原さんに言われたとおり利根君の所へと戻ることにした。

「小日向さん」

 少し歩くと利根君が立っていて、困ったように微笑んだ。
 追いかけて来てくれたんだ。

「ごめんね、利根君……ごめんなさい」
「どうして君が謝るの?」

 私みたいな偽善者が、あなたを好きになってごめん。 
 その瞬間一際大きな花火が空に打ち上がった。

「ほら見て小日向さん。大きな花火だ」