私のやんごとなき王子様 利根編
「水原さん、ごめんね。俺は……君の気持ちに答えられない」
「……どうして?」
水原さんの声が微かに震えている。私はどうしていいか分からず、ただじっと息を潜めてその場を見守っていた。
「俺は君を好きにならないから」
花火の音の隙間からはっきりと聞こえた利根君の答えに、私は驚いた。もちろん私だけじゃない、言われた本人である水原さんも驚いた顔をしている。
けれどすぐに見開いた目を元に戻し、利根君から視線を足元に落とした。
「――随分はっきりと言うのね……でも、それにも理由がある、という事かしら?」
すごく傷ついた顔の水原さんに、利根君は無言で頷く。
「分かったわ。それじゃあ、失礼するわね」
最後にもう一度私を睨んだ水原さんは潔くその場を去って行った。
「利根君っ」
「小日向さん。ごめんね、変な所見せて」
変な所なんかじゃないよ、水原さんにとってはすごく大切な事だもの!
「あんな言い方しなくても良かったのに……」
水原さんの姿が未来の自分かもしれないと思うと、やりきれなかった。
「もっと優しく言っていたら良かったかな? だけど俺は、そこまで偽善者でいたくないよ」
「利根君……」
作品名:私のやんごとなき王子様 利根編 作家名:有馬音文