小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私のやんごとなき王子様 利根編

INDEX|34ページ/60ページ|

次のページ前のページ
 

9日目


 昨日、水原さんの告白を聞いてからの私は、ずっと利根君の事を考えていた。

 作業中も時折利根君と水原さんの後ろ姿を見てはちょっぴりため息。後ろ姿だけなのにお似合いに見えてしまう私は負け犬だ。

 あ〜もう、集中しなきゃ! もう時間もないっていうのに!

 こんな感じで頭の中はずっともやもやしていたけど案外手元は動くもので、今日一日で残りの作業も無事終える事が出来た。明日は出演者が出来上がった衣装を着ての練習だ。実際に着て動いて、補強しなきゃ行けない部分や削った方がいい部分を確認するんだけど……


 気付けば部屋には私と利根君しか残っていなかった。集中するためにミシンを動かし続けたら、逆に集中しすぎてたみたい。私って一つのことにのめり込むと息継ぎがおろそかになるのよね。

「小日向さん」
「あっ、利根君。お疲れ様」
「随分集中してたみたいだね」

 こちらを振り向いてそう笑いかけて来る利根君に、私は恥ずかしくて肩をすくめた。

「あはは、なんとか終わって良かったよ」
「小日向さんの仕事を増やしちゃったから手伝いたかったんだけど、ごめんね」
「ううんいいの! 利根君だってオディール役の子が変わったからサイズ直しで大変だったでしょ?」

 私は出来上がった衣装を手に取り、壁際のハンガーラックに掛けながら利根君との会話を楽しんでいた。
 こうやって普通に話せる事がすごく嬉しい。思ったより緊張していないのが何より良かった。昨日の事を意識しすぎてたからもしかしたら上手く笑えないんじゃないかって思っていただけに、ほっとする。

「俺は大丈夫……ところで小日向さん」
「なあに?」
「これからちょっと、時間ある?」
「え? うん、あるけど……」

 私はハンガーラックから利根君を振り返った格好のまま止まった。
 ドキリと胸が鳴り、心無しか顔が熱くなる。

「海に行かない?」
「――海に?」

 利根君は優しげにそう言って立ち上がった。
 私は立ち上がるその利根君の動作に吊られるように頷いた。

「うん……行く」