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私のやんごとなき王子様 利根編

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 華道室の前までやって来てドアをノックする。
 中から優しげな声で返事が聞こえ静かにドアを開けると、どこのお姫様かと思うくらい美しい利根君が、色とりどりの花に囲まれて真剣な顔をしていた。
 あんまりその様子が綺麗で、私は声をかけるのも忘れて利根君を凝視してしまった。

「小日向さん? どうしたの?」

 入り口から一歩も動かないどころか声すら出さない私に、利根君が花を生ける手を止めて首を傾げる。

 そこで我に返った私は、利根君に見蕩れていたという恥ずかしさで俯いた。

「あっ、あのね、演劇祭なんだけど……小道具担当に決めたの。それを伝えようと思って……あの、よろしくね」
 
 小さく頭を下げると、利根君が立ち上がって私の前までやって来てにっこりと微笑んだ。

「本当に? すごく嬉しいよ。ありがとう小日向さん……もしかして、俺がお願いしたから、気を遣ってくれた?」
「ううんっ! 違うよ! 衣装とか小道具作ったりするのってやりがいありそうだし、それに……」
「それに?」

 利根君はマリンブルーのすごく色鮮やかな花を一輪手に持ったまま、私の言葉を待っている。
 ちょっと恥ずかしいけど、思い切って言ってみた。

「それに、利根君と一緒に仕事出来たら楽しいだろうなあって、思って」

 うわっ、恥ずかしいっ! 自分で言っておきながら、ものすっごい恥ずかしいっ!

「―――そんな嬉しいこと言われたら、どんな顔していいか分からないよ」

 ぼそりとそう呟くと、利根君は私に持っていた花をくれた。

「あ、ありがとう」
「そうだ。小日向さん。今日の放課後、衣装や小道具を作るのに必要な物を少し買い足しておこうと思ってるんだけど、もし良かったら買い物に付き合ってくれないかな?」

 なんだかいつもより数倍優しい笑顔で言われて、私は無意識のうちに返事をしていた。

「もちろん。付き合うよ」
「じゃあ、放課後教室まで迎えに行くよ」
「えっ!? いやっ、だ、大丈夫! 校門出た所にいてくれていいから!」

 利根君が私を迎えに来たりなんかしたら、さなぎがパニックになるかもしれない。
 それに、さなぎには悪いけど利根君の笑顔って本当に癒されるんだよね。だからちょっとだけ独り占めしたいなあ、なんて。