私のやんごとなき王子様 利根編
「ちょ! ちょっと美羽! あそこっ!!」
急に興奮し出したさなぎに、私は思いっきり揺さぶられた。
「なっ、何っ? 落ち着いてっ!」
「あそこあそこ! ほらっ! 利根君がいる!」
「えっ?」
漸く体を解放された私は、改札を出た所に立つ涼やかな利根君の姿を発見した。
「おはよう、小日向さん、佐和山さん」
「おはよう、利根君」
「おはようっ! 今日はいいお天気で良かったね!」
利根君ファンのさなぎはどうやらテンションが上がったらしく、笑顔が止まらない。
嬉しそうなさなぎの顔に吊られて、利根君も笑顔になった。
「うん、本当に快晴で良かった。あ、荷物持つよ」
そう言って私とさなぎの荷物を持とうとする利根君を、さなぎが強烈に遮った。
「駄目駄目! 利根君にこんな重たい物持たせられないよ! ほら、美羽! シャキシャキ歩く!」
「は、はいっ!」
元気よく歩き出したさなぎの後を追いかけながら、私は利根君と顔を見合わせて笑った。
「佐和山さんはいつも元気だね」
「うん、本当に。さなぎのあの明るさが大好きなんだ」
「こっちも元気になるよね」
そんな話をしながら集合場所へと楽しく進んだ。
*****
私達の目の前には大きなフェリーが青空をバックに悠然と佇んでいた。
毎年理事長がチャーターしてくれるこの大型フェリーに乗って、理事長所有の島へ向かうのだ。
港に勢揃いした我が星越学園の全校生徒。とは言っても生徒数が少ないうちの学校だから整列した様子に圧倒されるってことはないんだけど。
そしてさなぎとはここからはしばらく別行動。各担当毎に集まって乗船する。
別れ際ものすご〜〜〜く名残惜しそうにしてたあの顔が忘れられない。
それから校長の合宿スタートの挨拶を聞くと、あっという間に乗船となった。
さあ、いよいよ出発だ。
作品名:私のやんごとなき王子様 利根編 作家名:有馬音文