彼女の不安(2)
香奈子が言い返す最中、ヤンキーがほぼ水平に飛んだ。香奈子から見て左方向に、体を真横に、直角の「く」の字の形で。
ヤンキーが立っていた場所の背後にあたる位置に、いつの間にか道夫が立っていた。香奈子に正対していたが、顔は飛んだヤンキーの方向を向いていた。
「がっ、かはっ、んにす、くそがっ・・・」
ヤンキーは毒づきながら、左脇腹を両手で押さえて教室の床の上でのたうち回っていた。
「み、みっちゃん?」
道夫は香奈子に目を合わせる事もなく、自分の右手を閉じたり開いたりしながらその甲の部分を一瞥し、つかつかと数メートル先に吹き飛んだヤンキーの元へと歩いていった。
「みっちゃん、何を・・・」
道夫はヤンキーの傍で立ち止まり、勢いよくその脇腹を蹴り上げた。激痛と衝撃でヤンキーは仰向けからうつぶせになってうずくまった。この時点でヤンキーに毒づく余裕は完全になくなっていた。
その後道夫はヤンキーの左肩の傍で跪き、左手でヤンキーの髪を根本から握りしめ、右手をヤンキーの顎に添えた。
そして、まるで幼稚園児を諭すような、小さく穏やかな口調でヤンキーに耳打ちした。
「力抜け。暴れると余計苦しむ。」
そして右膝をヤンキーの背中に乗せ、体重をかけて一気に