幻想を盗む(仮)
鈍い音が響き、ついですさまじい衝撃が腹を通じてシーアンに伝わった。腹を殴られたことは察したのだが、まだ思考ができることから、気絶してはいなかった。
にも関わらず視界が真っ黒で、頭の血が逆流してくらくらするのは、殴った当事者が、倒れ掛かった自分をそのまま担ぎ上げたのだということに、シーアンは思い当たった。思考も、結局そこまでだった。
博物館から退散しようとした時、突然現れた「それ」を気絶させた女は、「それ」を担ぎ上げると、そのまま地を蹴った。
荷物を抱えているにもかかわらず、その跳躍には重力というものを感じさせなかった。
舞い降りるかのように、先刻自分が蹴破った窓ガラスの傍に降り立った女は、担ぎ上げた「それ」をちらりと見て、くすりと笑った。
「今日の収穫は予想外だったなぁ」
明るい声が、外から流れ込む生暖かい夜風と共に流れていく。
「この町のものって、それだけでも価値が高いのに」
肩からずり落ちそうになった「それ」をうんしょ、と担ぎなおし、女は瞳を輝かせた。
「『人』のいないはずの町の『人』、それだけでも希少価値なんだから!!!」
そして女はその場から、風のように立ち去った。
課題をすませようと忍び込んできた「人」、それも「少年」と共に。