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幻想を盗む(仮)

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始の章-遭遇-




シーアン・シェートランは今この瞬間、焦りの頂点に達していた。



 
 まず彼は今、不法侵入をしている最中だ。


 彼が今いるのは博物館。だが時間は夜でもちろん閉館中。シーアンだって本当はこんなことをしたかったわけではない。
 ただ、それに至る明確な理由がある。明確かどうかは、シーアン個人の考えだが。




 シーアンの通う「学校」でレポート課題が出たのが3日前のこと。

 博物館に寄贈されているもの3つについてレポートを書かねばならず、提出日はその日から3日後の夕方と伝えられた。寄贈されているもの3つのうち1つは、この町の歴史に関する文献だというので、より真面目に取り組むようにと担当教師が目を吊り上げて生徒を威嚇していたのはまだ記憶に新しかった。


 シーアンは2日前に博物館を訪れて、レポート課題の対象となった寄贈品を鑑賞していた。
 彼は元来真面目で、寄贈品に関しては図書館の歴史書と考古資料を見ていたので、3つのうち2つについてはそれなりにレポートを仕上げることができそうだと思った。


 しかし、担当教師が真面目に取り組むように言っていた文献についてはあまり言及された資料もないので、それについてレポートを書くとなるとかなり苦労するのだ。


 そして件の文献に関してどうにも納得のいかないことがあり、それをどうやって書こうか考えているうちに、提出日前日に時間が迫ってしまっていたのだ。
 焦るシーアンは、この事態を突破するためにはもう一度、件の文献を博物館に行って見る必要があった。しかし、レポート提出日の日は、博物館は休館日である。シーアンがそれに思い当たったのは、前日の夕暮れ時。博物館は、すでに閉館している。


 明日の夕方までにレポートを仕上げて提出しなくてはならない。レポートを仕上げる為には、あの文献をもう一度この目で見なければならない。


 ならば。


(忍び込むしかない)



作品名:幻想を盗む(仮) 作家名:千華