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私のやんごとなき王子様 土屋編

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「あっ、電話……」

 そんな夢見心地の私を現実へと戻してくれたのはさなぎからの電話だった。
 合宿用の荷造りの途中だった私は、ジャージやらタオルやらの間に埋もれて鳴っている携帯を掘り出して通話ボタンを押した。

「もしもし?」
『お疲れ〜! 荷造り終わった?』

 明るいさなぎの声が携帯の向こうから飛んで来て、私は笑顔になる。

「真っ最中だよ」
『そっか。ねえ、明日駅で待ち合わせて一緒に行かない?』
「うん! 一緒に行こう」
『決まり。しっかし一週間ってよく考えたら短いよね。去年と一昨年って一体どんなことやってたか思い出せないもん』
「あははっ、何とか仕上げなきゃってそのことに必死だったもんねえ」

 当時の様子を思い出して私は苦笑した。
 今年は一体どんな合宿になるんだろう。

『でもさ、美羽が高校生活最後の演劇祭だからどこを手伝うか決められなかったの、すごく分かる。本当に今度で最後なんだもんね……』
「さなぎ……」
『だから、お互い悔いのないようにしっかり仕事して、最っっっっっっっっ高の演劇祭にしようね!』
「うん!」
『じゃあ明日、駅でね。おやすみ』
「おやすみ」

 私はさなぎからすっかり元気をもらって、さっきまでの憂鬱な気分を切り替えることが出来た。
 そしたら今度はなんだか急にワクワクしてきて、今日の放課後の土屋君の横暴さも『芸術家ゆえ』みたいな感覚で、前向きに受け止める事が出来た。
 我ながら単純な話なんだけど。
 思わずそんな自分に苦笑しながら、急いで残りの荷造りを済ませると、私はパパとママ
のいるリビングへと部屋を後にした。
 明日から一週間会えないから、たっくさんお話をするんだ。

 不安なことばかりけど、やっぱり楽しみもすごく多くて、なんだかとっても大切な一週間になる気がした。


 さあ、合宿頑張るぞ!!