私のやんごとなき王子様 土屋編
土屋君から5メートル以上遅れて懸命に後を追う私。
手ぶらの土屋君は優雅に空なんて見上げながら歩いている。
「今日の空の色彩は実に良いね」
なんて言いながら。
私は空なんて見る余裕も無い。この荷物、一体何kgあるっていうの?!
「君ってさ」
ふいに土屋君が前方から私に声をかけてきた。
「な……なに?」
ピタリと歩みを止め、こちらを振り向いた土屋君にこの機に追いつこうと私は必死だ。
「いや、君って何色が一番好きなのかな? って思って」
ハァ? そんな事より今のこの現状をどうお思いですか? と小一時間問い詰めたい。けれどああ、土屋君って顔立ちだけは本当に綺麗なんだもの。思わず私もバカ正直に答えてしまう。
「ピンク……だけど」
「ピンク! そうか! あはは!」
土屋君は何がそんなにおかしいのか、ケラケラと笑いだした。もー、なんなのよー。
「うん、白鳥達の住まう湖はピンク色にしよう!」
「えぇ?! ちょっ、ちょっと待って!」
「ん?」
土屋君は何か? っていう顔。いやいやいや。
「そんなピンクの湖なんて聞いたことが無いよ!」
「でも君はピンクが好きなんだろう?」
「そうだけど……って、それと何の関係があるの?! と、とにかく湖っていったら、綺麗なブルーって決まってるじゃない!」
「君は青い湖が好きなの?」
「そりゃあ、ピンクの湖なんていう奇抜なものよりかは」
「そう、じゃあ青にしよう」
言って、土屋君はくるりと踵を返して学園へとまた歩みを進める。
一体何を考えていらっしゃるのだろうか、この孤高の芸術家様は……。全く考えが読めない。まだ合宿すら始まっていないというのに、こんなんで本当に大丈夫なのかな? ひたすら不安だーっ。
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文