私のやんごとなき王子様 土屋編
「あ! 玲、ちょっと待った!」
そこへ利根君が裁縫道具を片手にやってきた。
「華月、どうした?」
「ちょっといいか?」
「ん?」
そう言うと、利根君は風名君の足元にかがみ込んだ。
「やっぱり、さっきほつれた気がしたんだ」
「え?」
見るとほんの少しだけ風名君の衣装の裾部分がほつれていた。
「すぐに直すから、そのままで」
「ああ」
利根君は慣れた手つきであっという間に修復していく。凄いなぁ。
「おーい、お前ら準備は出来てるかー?」
そこへ届いた真壁先生の明るい声。先生の声は皆を瞬時に元気づけてくれる。
「気分の悪い者はいないか?」
あ、鬼頭先生も一緒だったんだ。
なんだかんだと言っても、私達の事を気遣ってくれてるんだな。
皆、明日の為に頑張ってきたんだもの。
ここで倒れたりしたら元も子もないもんね! 泣いても笑っても今日が最後の練習日。ホールも控え室も、劇場全体が緊張感に包まれている。私も頑張らなくちゃ!
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文