私のやんごとなき王子様 土屋編
「土屋先輩」
ふいに聞こえたその声に、私は思わず顔を弾かれた。振り向くとそこには水原さんが立っていた。
「土屋先輩、あの」
「やぁ、水原さんだっけ? ……用件は何?」
土屋君は水原さんを見ても今までと何も変わらない様子で、またすぐに夜空へと視線を馳せた。
「あの……私……やっぱり……その……」
口ごもる水原さんを見て、私はこの場にいてはいけないと感じた。
「あ、私、えっと席を外すね〜」
比較的明るく言った。でもそれに対する土屋君の声は冷たかった。
「いいよ、君はここにいればいい。すぐに終わる」
「え?」
去ろうとする私の腕を掴むと、土屋君は夜空に投げていた視線を水原さんへと向けた。
「断ったはずだよね?」
「……はい。でも私……やっぱり諦められないんです! 土屋先輩の事が好きなんです!」
「僕はあなたに興味は無い」
花火の大音響にも負けない凛とした声が響き渡る。
どうしよう……こんな……。
土屋君に掴まれた腕が無意識に震えていた。
「先輩……」
「はっきり言おうか? あなたに思われても迷惑なんだ」
その土屋君の言葉に水原さんの顔がサッと青ざめた。
「私……私……っ! ごめんなさいっ!」
水原さんが涙で瞳を潤わせながら、その場から駆け去っていく。
「水原さん!」
追いかけようとした私の腕を、土屋君が強く引く。
「きゃっ!」
走り出そうとしたその反動で、私は土屋君の腕の中に引き込まれた。
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文