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私のやんごとなき王子様 土屋編

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 土屋君と学園から一番近い画材店に行くと、店員のおばさんがすぐに出てきてくれた。

「土屋様、ご注文の品は揃っておりますよ」
「そうかい、見せて貰える?」
「はい、勿論」

 腰を低くして出てきたおばさんに顔色一つ変えずに、土屋君はそう伝える。土屋君の家は芸術家の一家で、土屋君のお父様は有名な画家、お兄様も同じく画家としてめきめきと頭角を現していて、この街で知らない者はいない。またお母様はとっても美人でしかもピアニスト。これでもかと言わんばかりに流れた芸術家の血をもって生まれた土屋君は、やっぱり選ばれた存在なんだろうか。
 このお店にとってもお得意様のようで、おばさんは慣れた手つきで土屋君の頼んでおいたらしい物を、レジの上に次々と並べていく。

 レジの上に置かれていく物を目だけで確認すると、土屋君は満足そうに頷いた。

「うん、一つも欠ける事無く揃っているね。じゃあ、支払いはいつも通りに」
「はい、かしこまりました」

 そう言うとおばさんは、レジの上の物を袋へと詰めていく。

「学校から演劇祭用のお金、預かってないの?」

 不思議に思っておもわず尋ねると、土屋君は何を言っているんだという表情で私を見据えた。

「当たり前だろう? 僕は僕の芸術を作り出す為に金銭になんて糸目を付けないよ。そんな事をしても完璧な物は作れないからね。支払いは家に任せてある」
「そ……そう」

 一体どういうゲージュツを作り上げるつもりなんだろう? おばさんが詰める袋の中には1200mlのアクリル絵の具のボトルや大容量のアクリルファンデーションなんかが次々に収められている。う……重そうだなぁ。

「では、こちらに」
「君、出番だよ」

 おばさんが手渡してきた大きな茶色の紙袋をアゴで指して、土屋君は私に命じた。
 はぁ……。しょーがないよね。

「重たいから気を付けてね」
「はい、有難うございましったっ! わっ!」

 おぼさんから受け取った紙袋の重さに、思わず膝が沈んでしまった。重い。ハッキリ言ってすっごく重い。画材ってこんなに重いものなの〜っ?!

「それじゃあ、また」

 それだけ言うと、土屋君はさっさと出口へと向かってしまう。

「ま……待って!」