私のやんごとなき王子様 土屋編
「ヨツメウオって、水面上も水面下も同時に見られる魚ですよねっ」
「そうなんだよ!」
それまで特に興味のなさそうだった土屋君が、彼女のその言葉を聞くと一気に顔が華やいだ。
「土屋先輩、ヨツメウオになりたいんですかー?」
「なりたいね!」
な……なんなのーっ。
「だからそんな大きな水中メガネしてるんですねーっ! 見れそうですか? 水中と水上を同時に」
「なかなか難しいよ」
「私も挑戦して良いですか?」
「ああ、勿論! 一緒に最適な角度を見つけようじゃないか!」
そう言うと二人はゴーグルを装着し、水面付近でバシャバシャとやり始めた。
な、なんだろう。この疎外感……。
何とも言えない寂しさが襲いかかってくる。
「小日向せんぱーい! 一緒にビーチバレーしませんかー?」
ビーチの方から私を呼ぶ2年の声に振り向くと、数人の後輩がこちらに向って手を振ってくれていた。
「うん! 今行くーーーーっ」
私も元気に返事をして、後輩の元へと向かった。
ちらりと後ろを振り返ると、土屋君は水原さんと楽しそうに笑いあっていた。
――いいのいいの!
私には関係のないことじゃない!
気持ちを切り替えようと、私は大きく頭を振った。
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文